・・・最も非人間的な男女は人間らしさを放棄した性へ還元して、両性関係を生きる。真実に自分を一個の社会人として自覚し、歴史のなかに自分一生の価値を見出そう、生きるに甲斐ある一生を送ろうと希う男女であるならば、どうして、わけもなく、とび散る花粉のよう・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・などに還元している。そして「かれが積極的になる時、飛躍する時、かれの性格の唯一の欠点である偏狭性が跳梁した」というに至って、誤謬はデマゴギー的性質にまで発展しているのである。この論法をもってすれば、同志小林が残虐きわまる拷問にあいつつ堅忍不・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・男達はまぼしいものを見るように曲の多い管絃をはなれた心と目とをこの女君にむけて居た、けれどもまともに見ることは出来なかった。弟君、いくら美くしいと云っても人なみの心地と、若さにその若さをほてる様にドキンドキンと波うつあつい血しおを持って居た・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・けれども肉体の解放によって封建性に反逆し、人間性を強調するというたてまえの肉体文学が、要するに両性の性に、人間性を還元した文学にとどまり、風俗小説がその傍観的な立場をすてて進むべき方向を見出せないままに現象反映の文学に止まっていることについ・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・しかし孤独な生活に苦しみ愛情に飢えている若い娘はうす気味悪く思った自然の気持ちをまぎらされて甘言にひっかかります。 今日の新聞を見ると、昭和十二年から十六年十二月七日までの言論界に於ける戦争責任追究の記事があります。今日東京裁判その他で・・・ 宮本百合子 「本当の愛嬌ということ」
・・・好者が、古代ギリシャ建築の明美な柱列を見た時、心を打れ、何はともあれ、アカンサスの葉で飾られた精緻な柱頭と、単純で力強い柱台とに注意を向けた如く、学徒が、狂暴な程、雑多な原質の目覚める青年期、不思議に還元的色彩を帯びる更年期を特に著しい二焦・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫