・・・ 婦人の文化上の創造能力の特質は直感的であり、感性的具体的で、その反面としては恒久性の短いこと、主観的であること、客観性や思意の力に欠けていることがこれまでのあらゆる場合に挙げられて来ているのである。そして、婦人というものはそういう風に・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
これまで、私たち日本の女性は、何と散り散り、ばらばらな暮しかたをして来たことでしょう。戦争の間、官製の婦人団体は、戦争目的を遂げるために、つよい力を発揮してあらゆる婦人を各方面へ動員しました。 農村で、工場で、婦人は男・・・ 宮本百合子 「婦人民主クラブ趣意書」
・・・自分は早くから、父はその晩、皆の歓声をあげさせるような何物かを持って居るのだ。 御きまりの、然し愉快な晩餐。それがすむと、私が「さあ、皆、眼をつぶって!」と、大きな盆の上に、綺麗に飾った包物を盛りあげて、正面の大扉から現れる。そ・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 丁度燈火管制の晩であった。二人は市電の或る終点で降りて、一斉に街燈が消され、月光に家並を照らし出されている通りを家まで歩いた。 ふだん街の面をぎらつかせているネオンライトや装飾燈が無く、中天から月の明りを受けて水の底に沈んだような・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・を主とする茶道が、関西にしても関東にしても大ブルジョアの間にだけ、嗜好されているという現実である。骨董で儲けるには茶器を扱って大金持の出入りとならなければ望みはない。今日日本の芸術の特徴とされている「さび」は常人の日暮しの中からは夙に蒸発し・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・そこには、その時分まだ批判精神は理知的・論理的・意志的なものであり、芸術性は感情的・感性的なものであるというような昔風な知情意の区分が、統一された人間精神の発動の各面という理解にまで高められていなかったことも現れているのである。 プロレ・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・ 従来文学が中央へばかり集ってしかもそこで類型化し衰弱しているように見える昨今、文学の地方分散の情勢が招来されつつあることは、朝鮮・満州などの文学的動勢に対する中央の文壇の関心を見ても、九州文学、関西文学などの活溌さを見ても、将来の文学・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・日本の近代社会の成り立ち、官製文明国としての特質が、日本的な現実性においてそうあらしめないであろう。 若し、社会的条件がそれを可能ならしめるならば、例えば犬養健氏、水上瀧太郎氏等の文学が、今日在るのとは全然変ったものとして生れたであろう・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・でなく、文学的業績が乏しいばかりでなく、大陸というものがその生活で示している巨大で複雑な主題の深さをリアルにつかんでいないことや、その主題が文学として命をもった表現を与えられるためには、作家そのものの感性が大陸生活史の質量を具えなければなら・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・四十がらみのその女は、「ずっと下町にいるから当分淋しくって困るかも知れないと思いますけれど、私も伜も体が丈夫な方じゃないから、一つ思い切って閑静なとこへ引込んで呑気に暮そうと思いましてね」などと、静かなうちに歯切れよく話した。「・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫