・・・西瓜の粒が大きく成るというので彼は秋のうちに溝の底に靡いて居る石菖蒲を泥と一つに掻きあげて乾燥して置く。麦の間を一畝ずつあけておいてそこへ西瓜の種を下ろす。畑のめぐりには蜀黍をぎっしり蒔いた。麦が刈られてからは日は暑くなる。西瓜の嫩葉は赤蠅・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・のみならずこれからやる中味と形式という問題が今申した通りあまり乾燥して光沢気の乏しいみだしなのでことさら懸念をいたします。が言訳はこのくらいでたくさんでしょうからそろそろ先へ進みましょう。 私は家に子供がたくさんおります。女が五人に男が・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・貰っても辞してもどっちにしても賀すべき事だというのがこの友の感想であるとかいって来た。そうかと思うと悪戯好の社友は、余が辞退したのを承知の上で、故さらに余を厭がらせるために、夏目文学博士殿と上書をした手紙を寄こした。この手紙の内容は御退院を・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・これが余の長谷川君と初対面の時の感想である。 それから、幾日か立って、用が出来て社へ行った。汚い階子段を上がって、編輯局の戸を開けて這入ると、北側の窓際に寄せて据えた洋机を囲んで、四五人話しをしているものがある。ほかの人の顔は、戸を開け・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・しかしそれに関らず私は何となく乾燥無味な数学に一生を托する気にもなれなかった。自己の能力を疑いつつも、遂に哲学に定めてしまった。四高の学生時代というのは、私の生涯において最も愉快な時期であった。青年の客気に任せて豪放不羈、何の顧慮する所もな・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・ わたくしはこんなに手短に乾燥無味に書きます。これは少し気分が悪いからでございます。電信をお発し下すったなら、明後日午後二時から六時までの間にお待受けいたすことが出来ましょう。もうこれで何もかも申上げましたから、手紙はおしまいにいたしま・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・「ご感想はいかがですか。」 私は答えました。「正直を云いますと、実は何だか頭がもちゃもちゃしましたのです。」 校長は高く笑いました。「アッハッハ。それはどなたもそう仰います。時に今日は野原で何かいいものをお見付けですか。・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・「これが乾燥罐だよ。」ファゼーロが云いました。「ここで何人稼いでいたって。」私はたずねました。「そうねえ、盛んにもうかったときは三十人から居たろう。」ミーロが答えました。「どうしてだめになったんだ。」 みんなが顔を見合せ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ そこには『白樺』がもたらした人間への愛の精神が具体的にどう消長したかも語られていて、さまざまの感想を私たちに抱かせると思う。〔一九四一年三月〕 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・しかし、それならばと云って、所謂文学的専門術は身にそなえていなくても、人間として民衆として生きる日常の生活の中から、おのずから他の人につたえたいと欲する様々の感想、様々の生活事情が無いと云えるだろうか。あったことを語りたい。忘られない或るこ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
出典:青空文庫