・・・ 昭電事件その他の、世界的な規模をもった政界腐敗の事実を知った私どもは、元大臣、各官庁の高官、その人々の道義の頽廃を痛感するとともに、その人々の妻の道義感がどんなに麻痺していたかということについておどろく。収賄の内容が味噌、醤油から洋服・・・ 宮本百合子 「妻の道義」
・・・K氏からの紹介で、長崎図書館長、永山時英氏を訪ねる予定なのであった。私は独り俥で出掛けた。 図書館は、諏訪公園の中に在る。グラント将軍が来朝した時建てた交親館を改造した小ぢんまりした建物だ。館長室に故渡辺与平の油絵と、同じ人の墨絵の竹の・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ きょうの新聞は、内閣情報部で第二回準備委員会をひらき、具体案は民間六人、官庁三人の小委員会の協議にゆだねられることになったと報じている。 先頃朝日に出された記事は、現代の読書するかぎりの日本人の脳裏に深く刻みつけられるものであった・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・常時、『戦旗』および『婦人戦旗』は、工場・農村・官庁・街頭などに溢れる革命的な男女勤労大衆にとって唯一の階級的雑誌であり、日常的な組織者であった。しかし、『戦旗』『婦人戦旗』の編輯は必ずしもいつも正しくプロレタリア文化活動を理解した方針の上・・・ 宮本百合子 「婦人雑誌の問題」
・・・却って婦人が今までたとえば小学校教員でも女の教員は月給が初めから安く、且つ永久に安い、たとえ五円でも安くなければ気が済まないという有様で、各官庁会社に勤めている婦人達もそうでした。あの人がいなければちょっと困るという位置の人でも地位は男より・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・私たちはやはり率直に、転換期として今日現れている文化一般の混乱、低下を認めなければならず、いわば婦人作家の擡頭ということも今日までの範囲と質とでは、やはり干潮とともにあらわされた岩の姿として自覚する歴史的な目を求められていると思う。 こ・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・べての学者、芸術家がマドリッド政府の側に在り、有名なセロの名手、私たちに馴染ふかいパブロ・カザルスが全財産を寄附したり、画家ピカソがスペイン美術をファシストの砲火から守るためにマドリッドのプラド美術館館長に任命されたりしているということを、・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・人民の貯蓄は、昨年末から、大干潮のように減少しつづけた。反対に、物価は、上へ、上へと、のぼりつめて、二本の線を、もすこしのばせば、其は完全な十の字となってぶっちがうところ迄来た。モラトリアムをしくしか、政府のうつべき手はなかったのである。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・この赤字の中でどうして人々は生きているだろう。官庁などの月給は、今日の下駄一足、足袋一足に近い金額のまま据置かれた。特別の技能を持たず、収入の途を図れない人々が落ちて行くところは闇商売であり、賭博である。 戦時中、あんなに「愛国心」に愬・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・また諸官庁は元より、会社でもタイピストさえ年齢十七八歳、両親の家より通勤の者にかぎり採用が現実の有様であり、男の就職上の困難は、その困難が最も少い大臣の息子たちの新米勤人姿が、写真入りで新聞の読物となる世の中である。男がきっと女を喰わせ得、・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫