・・・しかし同時にそれを万治寛文の頃としてあるのを見れば、これは何かの誤でなくてはならない。三斎の歿年から推せば、三回忌は慶安元年になるからである。そこで改めて万治元年十三回忌とした。興津が長崎に往ったのは、いつだか分からない。しかし初音の香を二・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・中には近世人の書いた、平易な漢文を訳した本なんぞは、わたくしは少しもほしく思いません。 わたくしのほしいのは、古事記のような、ごく古い国文の訳本でございます。それからやや降って物語類の中では、源氏物語の訳本が一番ほしゅうございます。・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・子供の時以来漢字や漢文を教わって来ていても、右のような単純明白なことを誰も教えてくれなかった。英語の字引きをひいて mustmustなどとあるのをおもしろがっていた年ごろに、もし漢語を同じように写音文字にすれば、どころではなくから、否…と並・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫