・・・ 勿論、心の賤しい、出鱈目の女ならば、自分は臥床に横って良人を叱するようなことがないとは云えません。又、人前では虚偽を装って、平常擲りつける妻の腕を、親切気に保ってやる男もないではありませんでしょう。 けれども、相当の人格を持った者・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 昨夜眠ったまま、もう永久に口をきかず、眼も見開かない自分が、冷たい冷たい臥床の中に見出されるだろう。 彼女は、彼女の知っている限りの美くしい言葉で考える。 両親の驚きと、歎き。自分に不当な苦痛や罵詈を与えた者達は、最後・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 私は絵として心を打たれるものを見出すことは出来なかったが、その絵の大小によって云わず語らずのうちに示された日本の大画家連の製作をも左右している世間の不景気の反映に興味を感じた。 画商との微妙な連関で自分の画の市価というものが定り、・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・これが資本主義社会での美術である。画商の存在の意義を考えればよく分る。 芸術における独自性と独得なテンペラメントと、商品としての独自性の必要とはブルジョア画家の画業のうちにかなしくまじりあってかれらをかりたてている。 近代の絵画の一・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・ 青山の杉の根本の 永しへの臥床へ――。九月二十三日「悲しめる心」を書きあげる。十二月一日 病みてあれば 又病みてあればらちなくも 冬の日差しの悲しまれける 着ぶくれて見にくき・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・として見て呉れ、わしに臥床をかすのを嫌わいで呉れると云う事は何よりも快い事じゃ。 末長うござる方に、栄を残す事は又よろこばしい。 これですべての事の方はついて仕舞う、とは云えこの徳も力もないわしが、やがての時、見事にすこやかに生い立・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・すべてのことが、重吉に云われた後家のがんばりを中心に思いめぐらされるのであったが、並んだ二つの臥床を丁寧にこしらえて行くうちに、ひろ子の心に、次第に深まる駭きがあった。ひろ子にとって、ずばりと後家のがんばりを警告してくれるのが、良人である重・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・が、それと知った聖画商の番頭は、奇妙な反り鼻の小僧を呼びつけて、云いわたした。「お前は抜萃帖か何かを作っているそうだが、そんなことはやめちまわなくちゃいけない。いいか? そんなことをするのは探偵だけだ!」 一八八一年、ゴーリキイが十・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫