・・・そうしてこの結合は、前にもいったごとく、両者とも敵をもたなかったことに起因していたのである。べつの見方をすれば、両者の経済的状態の一時的共通に起因しているのである。そうしてさらに詳しくいえば、純粋自然主義はじつに反省の形において他の一方から・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・そこに限って気韻が生動している。そんなふうに思えた。―― 空が秋らしく青空に澄む日には、海はその青よりやや温い深青に映った。白い雲がある時は海も白く光って見えた。今日は先ほどの入道雲が水平線の上へ拡がってザボンの内皮の色がして、海も入江・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・あのひとなどは、さすがに武術のたしなみがあったので、その文章にも凜乎たる気韻がありましたね。あの人は五十ちかくなって軍医総監という重職にあった頃でも、宴会などに於いて無礼者に対しては敢然と腕力をふるったものだ。いや、記録にちゃんと残っていま・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・歩かなくても電車や汽車やバスでどこまででも行けるではないかと云われるが、しかしそういう好季節の好天気の休日の交通機関に乗ってゆっくり腰をかけられるチャンスは少ないし、腰かけられたとしても、車内の混雑に起因する肉体的ならびに精神的の苦痛は、目・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ このような影像の間欠的なことに起因するフィルムの世界の特異性も、現在では利用されようとはせず、かえってむしろできるだけ避けようとして、そのほうに苦心が費やされているようである。しかしここにもいろいろな未来の可能性が伏在するであろう。・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・御馳走を喰えば栄養になり、喰い過ぎれば腹下りを起こすくらいのことは知っていたが、この、医学者でも物理学者でも何でもない助手M君の感冒起因説は当時の自分の医学上の知識を超越していたのである。 しかし、その当時気のついていたことは、何かしら・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・また陸上では起らぬようなタービンの故障が舶用タービンでしばしば起るのはタービン・ディスクの廻転に船の動揺が作用するためのジャイロスコピック・アクションに起因する盤の振動によるものであろうということに着目して、この不可解の問題を解決した。これ・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・多くの場合には、その地震が某火山の活動に起因するとか、あるいは某断層における地辷りに起因するとかいうような事が一通り分れば、それで普通の源因追究慾が満足されるようである。そしてその上にその地辷りなら地辷りが如何なる形状の断層に沿うて幾メート・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・二十万分の一の地図を手にして道路の小凹凸を索め、物体の温度を知りてその分子各箇の運動を知らんとすると同様なる誤解に起因す。 四 次に地震予報の問題に移りて考えん。地震の予報は果して可能なりや。天気予報と同じ意・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・もしかすると、ドイツ人がいったいに数理的科学に長じているように見えるのは、やはり同じ根気のよさ執拗さに起因しているのではないかという疑いが起こった。そう考えてみるとドイツ人の論文の中に、少なくもまれには、愚にもつかない空虚な考えをいかめしい・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
出典:青空文庫