・・・また、人の天然において奇異を好むは、その性なり。山国の人は海を見て悦び、海辺の人は山を見て楽しむ。生来、その耳目に慣れずして奇異なればなり。而してそのこれを悦び、これを楽しむの情は、その慣れざるのはなはだしきにしたがってますます切にして、往・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・妄評御海恕被下度、此段、得貴意候也。 五月 日福沢諭吉 森文部大臣殿 倫理教科書の目的は、人の徳心を養成せんとするにあるか、ただしは人をして人心の働を知らしめんとするにあるか。けだし心理を知る者、必ず・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・その策如何というに、朝夕主人の言行を厳重正格にして、家人を視ること他人の如くし、妻妾児孫をして己れに事うること奴隷の主君におけるが如くならしめ、あたかも一家の至尊には近づくべからず、その忌諱には触るべからず、俗にいえば殿様旦那様の御機嫌は損・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・一月ごとにその程度と範囲が際限なくひろがって、客観的に公平に、国際問題や経済、政治問題をとり扱った内容さえ忌諱にふれた。日本のなかに、客観的な真実、学問上の真理、生活の現実を否定して、日本民族の優秀性と、侵略的大東亜主義を宣伝する文筆だけが・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・ 恋愛に面し、人によって、そとから、人生の明るい半面のみを感じ得る者、又消極のみを感じ得る者、消極を先ず見、後、そこを通して奇異な光明を認める者、等の差、類があるのではあるまいか。 彼の恋愛は、始めのものから、所謂不幸なものであった・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・が、ああいう投書をのせなければならなかったのだろうか。奇異なことであった。 選挙後、三百万票を得た党は、文化面でもひろく力を結集して文化反動とのたたかいに動きはじめた。あの投書は文学運動全体にもかかわりをもっているから、病気のために少し・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・、その他の、下じきをもっていて、その上に処方した作品をつくり出していること、或は歴史性ぬきの下じきを使用することをあやしまないならわしをもっているという事実で、むしろ、こんにちの世界文学をおどろかせ、奇異の思いを抱かせることではないだろうか・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ その写真は、すべての人々に、奇異な印象を与えた。古風な角かくしまでかぶって嫁入る花嫁や素朴そうな花婿の、指紋をとることにきめたとは、よほど泥棒でも、多勢出た村だったのだろうか。それとも、殺人とか何とかおそろしい事件で、むじつの村人のい・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・ 石川達三の小説が軍事的な意味から忌諱に触れたのもこの年の始めであった。文学のこととしてみれば、その作品は、当時の文学精神を強く支配し始めていた所謂意欲的な創作意図の一典型としてみられる性質の作品であった。「蒼氓」をもって現れたこの作者・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・をまとめたのだが、この随談随筆の中に、修業時代からマイステルに至る間に感服して見た古典、同時代人の作品などに一言もふれていないのは、奇異な感じがした。 師匠についてのみ語っている。縮写をよくしたこと、一心に描いたこと、それだけが語られて・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
出典:青空文庫