・・・ 以上を要約するに、現実に立脚した、奔放不覊なる、美的空想を盛り、若しくは、不可思議な郷土的な物語は、これを新興童話の名目の下に、今後必ずや発達しなければならぬ機運に置かれています。いまの児童の読物のあまりに杜撰なる、不真面目なる、・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・茶道にも機運というものでがなあろう、英霊底の漢子が段に出て来た。松永弾正でも織田信長でも、風流もなきにあらず、余裕もあった人であるから、皆茶讌を喜んだ。しかし大煽りに煽ったのは秀吉であった。奥州武士の伊達政宗が罪を堂ヶ島に待つ間にさえ茶事を・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・大量生産の機運に促されて、廉価な叢書の出版計画がそこにも競うように起こって来たかと思いながら、日本橋手前のある地方銀行の支店へと急いだ。郷里の山地のほうにいる太郎あてに送金するには、その支店から為替を組んでもらうのが、いちばん簡単でもあり、・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・近年力学物理学を根底より改造する気運を生じたいわゆる相対率の原理のごときも、もし電子の運動に関する実験上の事実が知られなかったならばおそらく今日のごとき進境を示す事もなかったであろう。 知るにはまた種々多様の知るがある。地球上の物体が地・・・ 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・国粋保存の気運の向いて来たらしい今の機会に、内務省だか文部省だか、どこか適当な政府の機関でそういうアルキーヴスを作ってはどうであろうか。ついそんな空想も思い浮かべられるのである。 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・誰がそのような気運を作ったか。世界を流るる人情の大潮流である。誰がその潮流を導いたか。とりもなおさず我先覚の諸士志士である。いわゆる多で、新思想を導いた蘭学者にせよ、局面打破を事とした勤王攘夷の処士にせよ、時の権力からいえば謀叛人であった。・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・既にこの数年の間にかほど進歩の機運が熟するとしたなら、突然それを阻害する事情の起らない限りは、文芸院などという不自然な機関の助けを藉りて無理に温室へ入れなくても、野生のままで放って置けば、この先順当に発展するだけである。我々文士からいっても・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・この革命は諸藩士族の手に成りしものにして、その士族は数百年来周公孔子の徳教に育せられ、満腔ただ忠孝の二字あるのみにして、一身もってその藩主に奉じ、君のために死するのほか、心事なかりしものが、一旦開進の気運に乗じて事を挙げ、ついに旧政府を倒し・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・一九四八年のなか頃から、国内にたかまってきている民族自立と世界平和と、ファシズムに反対する文化擁護の機運は、決して一部の人の云っているようにジャーナリズムの上の玩具ではない。こんにち、平和を支持し、ファシズムに反対する作家たちの一人一人が、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・ パリには二月革命の機運に乗じて母国解放運動を起そうとして、各国の亡命者たちが集っていた。共産主義者同盟の人々の多くがドイツに帰って、さまざまの面で活動しはじめた。カールはドイツの中でも労働者の自覚が一番進んでいるケルン市に行った。二人・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
出典:青空文庫