・・・「それでも都の噂では、奇瑞があったとか申していますが。」「その奇瑞の一つはこうじゃ。結願の当日岩殿の前に、二人が法施を手向けていると、山風が木々を煽った拍子に、椿の葉が二枚こぼれて来た。その椿の葉には二枚とも、虫の食った跡が残ってい・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・そういう時勢であったから椿岳は二軒懸持の旦那で頤を撫でていたが、淡島屋の妻たるおくみは男勝りの利かぬ気であったから椿岳の放縦気随に慊らないで自然段々と疎々しくなり、勢い椿岳は小林の新らしい妻にヨリ深く親むようになった。かつ淡島屋の身代は先代・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・おおかたわたし達も誰も居なかったら自由自在だっておまえはお悦びだろうが、あんまりそりゃあ気随過ぎるよ。吾家の母様もおまえのことには大層心配をしていらしって、も少しするとおまえのところの叔父さんにちゃんと談をなすって、何でもおまえのために悪く・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・前述のごとく、自分は勉強するにしても気随気ままな方法を執っていたから、こんな種類の物を読んでいる余裕もあったのであろう。 こういうと非常に文学興味でも持っていたように聞こえるが、あながちそういうわけではない。だが、こんなところから得たも・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
一 夫女子は成長して他人の家へ行き舅姑に仕ふるものなれば、男子よりも親の教緩にすべからず。父母寵愛して恣に育ぬれば、夫の家に行て心ず気随にて夫に疏れ、又は舅の誨へ正ければ堪がたく思ひ舅を恨誹り、中悪敷成て終には追出され恥・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫