・・・複雑なる主義に、たとえば、政治に、経済に、既成の哲学に、依拠し、隷属しなければならぬとするごときは迷蒙である。こうしたことによって何等か、感激を呼び起した場合がなかったと言わない。しかし、いまは、この重圧のために、空想を、想像を、拘束されて・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・この意味において、既成の感情、常識を基礎とする、しかも廃頽的な大人の文学と対立するものでなければなりません。しかるに、指導的立場にあるものゝ無自覚と産業機関の合理化は、新興文学の出現とその発達を拒んでいます。 しかし、このことも、幾千万・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・二 その話は別として、先般の反キリスト教同盟というものは、まさに昨年四月から北京に開かれた世界キリスト教青年大会と対立して気勢を挙げたものだ。そうして反キリスト教同盟は「キリスト教は科学の信仰を阻止し、資本主義の手先になって、他・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・それから三十分も経ったと思うころ、外から誰やら帰ってきた気勢で、「もう商売してきたの、今夜は早いじゃないか。」と上さんの声がする。 すると、何やらそれに答えながら、猿階子を元気よく上ってきた男がある。私は寝床の中から見ると薄暗くて顔・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・日本もフランスも共に病体であり、不安と混乱の渦中にあり、ことに若きジェネレーションはもはや伝統というヴェールに包まれた既成の観念に、疑義を抱いて、虚無に陥っている。そのような状態がフランスではエグジスタンシアリスムという一つの思想的必然をう・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・、立ちどころに言い返して勝てば、一年中の福があるのだとばかり、智慧を絞り、泡を飛ばし、声を涸らし合うこの怪しげな行事は、名づけて新手村の悪口祭りといい、宵の頃よりはじめて、除夜の鐘の鳴りそめる時まで、奇声悪声の絶え間がない。 ある年の晦・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・悪童帰省すという感じであった。何か珍妙なデマを飛ばしたくてうずうずしているようだった。 案の定東京へ帰って間もなく、武田麟太郎失明せりという噂が大阪まで伝わって来た。これもデマだろうと、私はおもって、東京から来た人をつかまえてきくと、失・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・の四字を冠しただけで満足しているような文壇社会党乃至文壇共産党の文学も、文壇進歩党の既成スタイルを打ち破るだけの新しいスタイルを生み出す努力をしなければ、いいかえれば作品の上で文壇進歩党に帽子を脱がすほどの新しさを生み出さねば、結局は文学運・・・ 織田作之助 「土足のままの文学」
・・・土井はこう言って、近所に住っている原口を迎えに、すぐにも起ちあがりそうな気勢を見せた。「そりゃ君困るよ」と笹川は狼狽して言った。「そんなこと言われては、僕は困っちまうよ。君はどうしても出席してくれたまえ。それでないと僕が困っちまうよ。と・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・』 この時クスリと一声、笑いを圧し殺すような気勢がしたが、主人はそれには気が付かない。『命せえあればまたどんな事でもできらア。銭がねえならかせぐのよ、情人が不実なら別な情人を目つけるのよ。命がなくなりゃア種なしだ。』 娘が来て、・・・ 国木田独歩 「郊外」
出典:青空文庫