・・・そうして、広大な植民地と市場を独占した資本家は、自分では何等働かずに、搾取によって寄生的な生活をする。「資本主義は、極く少数の特に富有で強力な国家を極端まで押しやり、それらの少数国家は、世界住民の約十分ノ一か、多く見積って高々五分ノ一しか擁・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・自然主義運動勃興以前の各既成作家の行きづまりは、恐ろしく、水っぽい戦争小説の洪水をもたらした。それは、後の自然主義運動に於いて作家としての生長を示した徳田秋声の、この時の作品「通訳官」を見ても、また、小栗風葉の「決死兵」、広津柳浪の「天下一・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・大噐不成なのか、大噐既成なのか、そんな事は先生の問題ではなくなったのであろう。 幸田露伴 「観画談」
・・・嫂も三十年ぶりでの帰省とあって、旧なじみの人たちが出たりはいったりするだけでも、かなりごたごたした。 人を避けて、私は眺望のいい二階へ上がって見た。石を載せた板屋根、ところどころに咲きみだれた花の梢、その向こうには春深く霞んだ美濃の平野・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・この思い切った宣伝が廉価出版の気勢を添えて、最初の計画ではせいぜい二三万のものだろうと言われていたのが、いよいよ蓋をあけて見るとその十倍もの意外に多数な読者がつくことになった。 思いもよらない収入のある話と私が言ったのは、この大量生産の・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・かれが高等学校にはいったばかりのころで、暑中休暇に帰省してみたら、痩せて小さく、髪がちぢれて、眼のきびしい十六七の小間使いがいて、これが、かれの身のまわりを余りに親切に世話したがるので、男爵は、かえってうるさく、いやらしいことに思い、ことご・・・ 太宰治 「花燭」
・・・当時、歌人を志していた高校生の兄が大学に入る為帰省し、ぼくの美文的フォルマリズムの非を説いて、子規の『竹の里歌話』をすすめ、『赤い鳥』に自由詩を書かせました。当時作る所の『波』一篇は、白秋氏に激賞され、後選ばれて、アルス社『日本児童詩集』に・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・私、小学四、五年のころ、姉は女学校、夏と冬と、年に二回の休暇にて帰省のとき、姉の友人、萱野さんという眼鏡かけて小柄、中肉の女学生が、よく姉につれられて、遊びに来ました。色白くふっくりふくれた丸ぽちゃの顔、おとがい二重、まつげ長くて、眠ってい・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・と歌って気勢をあげる。謀叛は、悪徳の中でも最も甚だしいもの、所謂賊軍は最もけがらわしいもの、そのように日本の世の中がきめてしまっている様子である。謀叛人も、賊軍も、よしんば勝ったところで、所謂三日天下であって、ついには滅亡するものの如く、わ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・程度の差はあるけれども、僕たちはブルジョアジイに寄生している。それは確かだ。だがそれはブルジョアジイを支持しているのとはぜんぜん意味が違うのだ。一のプロレタリアアトへの貢献と、九のブルジョアジイへの貢献と君は言ったが、何を指してブルジョアジ・・・ 太宰治 「葉」
出典:青空文庫