・・・肉体小説、中間文学に対する彼のもの言いは、非常に機智的であった。否定するかとみれば、一部の肯定もあり、さりながら単純な肯定一本で貫かれているという見解でもなかった。伊藤整を、そのように複雑なもの云いにさせたのは何であったろう。彼にも、過去の・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・れに対して、いつの時代にも生存した特別に心情の活溌なある種の人々は、皮肉に人生のありのままを感じ観察していて、例えばイタリーのボッカチオという詩人は坊主くさくかためた天国地獄の絵図を、きわめてリアルに機智的に諷刺し、破壊しようとしている。「・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・その沈潜するこころもちをまぎらすように、わやわやとした声でかつて軍部に扈従して政治や文学を語った作家が、こんどは、軍事基地施設を拒むことは出来ないという吉田首相をとりまいて文学・政治を談じている。 これらの現実にかかわらず、地球は、今日・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・自分のところは無傷で、よその国を軍事基地化し、そこの人民を傭兵として、それで戦争をやるのだ、という風に。―― しかし、みなさま。 この地球のどこに、他国の軍事基地となるために存在して来た国があるでしょう。 そして、みなさま。・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・軍事基地とされることは、ことわっている。これだけの言葉は、こんにち、日本と世界のために暗記してでも、くりかえされる意義をもっている。わたしたちは、平和を、欲している。たった三ことのこの日本語こそ、どの国の言葉に訳しても三つの言葉にまとまって・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・と結び、それによって逆効果をひき起し、ある機智的な鋭さで、閃光のように作家としての良心の敏さ、芸術境の独自性を全篇の内部に照りかえそうと試みられそうであったかもしれない。ところが、「父母」全篇を通じての一番普通の人間はわかりよいこの文句には・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・主婦たちの機智と愛とは一層台所での活躍を求められる。 人間はあらゆる生きものの中で一番何でも食べる能力をもっている。決して悲観に及ばない。けれども、科学的な知識は益々大切である。難関をのりこす精神力も、肉体が土台である。 ・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・は金はなくても銘々が好むところを発揮して営んでゆく家庭の楽園が、空想的にまで主張されており、従来の映画の中では、破壊者の役割に廻っていたお金持ちの事業家などでもあの映画の中では、その過程の楽園の喜びと機智に負けて譲歩するハピイエンドです。あ・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・ 公然と条理をもって、しかも人間的機智と明察をもって、どこまでもユーモラスに、だが誰憚らぬ正気な状態において諷刺文学がありうる処と時代に、スカートの中を下からのぞくようなゲラゲラ笑いが、笑う人間の心を晴やかにするとは思われない。自分たち・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 丹羽文雄は報道班員として行った特攻隊基地の実際の腐敗を、自分の内面生活にかかわりなくつきはなし、それとして描写して、作品としては読ますが、それ以上、文学的人間的感動をもっていない安易な態度があります。もうちょっと気がきいたような作家は・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫