・・・ジャーシャは「快活で、率直で、機智にとみ、人生に対して楽天的で、しかも独立心にもゆる魅力ある近代女性」として読者に愛せられる娘である。が、作者は、ジャーシャを孤児の境遇から幸福で富裕な近代若夫人に育て上げるために「あしながおじさん」というほ・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・のしきたりが女の実力を育ててゆく習慣の上にその位おくれている歴史の反映として、自身の内部にもおくれたものは持っているのだから、職業は職業として理解して確りそこで腰を据えて新領野をひろげるように独創性や機智を発揮しようという気にはならないのが・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・中世の女性達は女としての奇智の限りを尽して、非道な奪掠者と闘った。そして自分の愛の純潔と夫への忠実を守った。 このようないきさつは、日本の中世の武家社会にやはり少くなかった。例えば袈裟御前の物語がある。一人の武家の婦人が生命を賭さなけれ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・それはわれわれの主観をして既知なる経験的認識から未知なる認識活動を誘導さすことによって触発された感覚である。此のより深き認識への追従感覚を所有した作品をまた自分は尊敬する。例えば最も平凡な例をもってすれば、ストリンドベルヒの「インフェルノ」・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・この一、二年間のヨーロッパには、日本人の容易に窺知し難い進歩があった。ヨーロッパが苦しみ疲れるのをあたかも自分の幸福であるがごとく感じている日本人は、やがて世界の大道のはるか後方に取り残された自分を発見するだろう。それはのんきな日本人が当然・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・彼らが尚ぶのは酔歓であった、狂気であった、機智であった、露骨であった。すべて陽気と名の付かないものは、彼らの心を喜ばせるに足りなかった。彼らは胸に沁み入る静かな愛の代わりに、感覚を揺り動かす騒々しい情調を欲した。こうして私はただひとり取り残・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫