・・・石ころ道の旧道を、冬ごもりの仕度に竹、木材、柴など背負い、馬につんだ農夫がうちつれだって下ってゆきます。高原の頂に国際観光ホテル建造中です。 この川が流れて千曲川に合します。この手前にやや濃い山の左手に長野がある。更に左手のこのハガキか・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・という気持、あの「人を救うための求道ではない、真理の為めに真理を究める求道」であるという心境、それを私は求めたいと思います。私の目下はあの地虫が春が来てひとりでに殼を破って地上に抜け出る、あの漸進的な自然の外脱を得たいと思います。 至純・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・私は、心をこめ、求道者が師を礼拝するような心持で頭を下げた。そして、次第に熱中し、興にのって、講義して行かれる心理学概論を筆記する。 先生の教授ぶりは、熱があり、インテレクチュアルで、真摯なものであった。 黒板に何か書いたチョークを・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・T氏もまた弱い所の多い求道者であることを、与うるとともに受けなければならない乏しい愛の蔵であることを、私たちはあまりに知らなさ過ぎた。私はT氏に対して済まないという思いを禁ずることができない。 わずかに三四度逢ったT氏に対してさえそうで・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・一人の求道者の人間知と内的経路との告白を聞くのである。九 利己主義と正義、及びこの両者の争いは先生が最も力を入れて取り扱った問題であった。『猫』は先生の全創作中最も露骨に情熱を現わしたものである。それだけにまた濃厚な諧謔・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫