・・・細君の丸帯から出来た繻珍ズボンをはいて、謹厳な面持で錦絵によくある房附きの赤天鵞絨ばりの椅子にでもかけていただろう祖父の恰好を想像すると、明治とともに心から微笑まれるものがある。 祖父は自分としては学者として一貫して生きようとしたようだ・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・の終りの部分に就いて島木氏に、あれはどうも変だ、どうしてあの主人公は釈放を求めずにいるんでしょう、あれでいいんでしょうかという意味を言ったらば、島木氏は例の謹厳な面もちのまま、ああ、あすこのところはこしらえてあるという意味を答えた。そうだと・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・知らしむべからず、よらしむべしという徳川幕府の政治的金言は、天皇制運営者たちによって、人民にあてはめられて来たばかりでなく天皇そのひとの生涯に適用された。天皇一族の経済的なよりどころは資本家、地主としての日本の資本主義の上にある。その帝国主・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・遊所に足を容るることをば嫌わず、物に拘らぬ人で、その中に謹厳な処があった。」 森鴎外 「細木香以」
・・・というあの金言の真の深さと重さをも。二 私はこの出来事が小さい家常茶飯の事であるゆえをもって、その時の自分の心の態度を軽視する事はできなかった。むしろそれがきわめて単純にまた明白に、自分の運命に対する愛と反撥とを示してくれた・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫