・・・父はややしばらく自分の怒りをもて余しているらしかったが、やがて強いてそれを押さえながら、ぴちりぴちりと句点でも切るように話し始めた。「いいか。よく聞いていて考えてみろ。矢部は商人なのだぞ。商売というものはな、どこかで嘘をしなければ成り立・・・ 有島武郎 「親子」
・・・果敢ない労力に句点をうって、鍬の先きが日の加減でぎらっぎらっと光った。津波のような音をたてて風のこもる霜枯れの防風林には烏もいなかった。荒れ果てた畑に見切りをつけて鮭の漁場にでも移って行ってしまったのだろう。 昼少しまわった頃仁右衛門の・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・れでもか、これでもか、生垣へだてたる立葵の二株、おたがい、高い、高い、ときそって伸びて、伸びて、ひょろひょろ、いじけた花の二、三輪、あかき色の華美を誇りし昔わすれ顔、黒くしなびた花弁の皺もかなしく、「九天たかき神の園生、われは草鞋のままにて・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
出典:青空文庫