・・・ 一所の小学校に、筆道師・句読師・算術師、各一人、助教の数は生徒の多寡にしたがって一様ならず、あるいは一人あり、あるいは三人あり。 学校、朝第八時に始り午後第四時に終る。科業は、いろは五十韻より用文章等の手習、九々の数、加減乗除、比・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ すでに人生の苦闘の意味を知っているイエニーは、赤児の揺籃の傍で、あわれな故郷の織匠たちの運命とその妻や子らの心のうちをどんなに思いやったろう。 カールと『独仏年誌』を中心としてその家に集る亡命者の中には、卓抜な諸部門のチャンピオン・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・一人の労働者の若者を主人公として、その家庭的苦境と職場での日和見的勢力との苦闘を、当時の一つの階級的現実として描いた作品であった。苦渋な、しかし真摯な作品である。「小祝の一家」が雑誌『文芸』に発表されて程なく、一九三三年十二月二十六日宮・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・の中に描かれているアメリカの庶民階級の娘としての少女時代、若い女性として独立してゆく苦闘の過去こそ、それの背景となった社会がアメリカであるとドイツであるとの違いにかかわらず、ケーテの描く勤労する女性の生活のまともな道と一つのものであることも・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ こんにち、文壇の作家たちが、めいめいの特色となっている角度やニュアンスを失うまいとしながら社会の現実観と自己の創作方法との間に生じている悲劇的な裂けめにはさまって苦闘しているばかりではない。現代文学のその裂けめから、おびただしい土砂崩・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・もとより読者の支持がなかったから、つぶれたのではなかった。苦闘していた「民報」の最後に打撃を加えた出火事件の真相に対して、官憲はどんな調査をしただろう。 のこっている老舗の一つが、依然として講談社であり、そのすべての講談社的特性において・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・ジョルジ・サンドは、はじめの結婚にやぶれてのち、生活のために苦闘しながら、女性の権利を主張した「アンジアナ」をかいたし、エリオットも文筆からの収入で生活しなければならない婦人として小説をかきはじめた。これらすべての婦人作家が、様々のテーマを・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・とか種々の委員会への分散的吸収にまかせざるを得なくなって、この夏、新体制の声とともに、婦選獲得同盟は十八年の苦闘の歴史を閉じて解消してしまったのであった。 婦選の動きが日本にあってはこのように見るも痛々しい浮沈をくりかえして、公民権さえ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・今日、聰明で、誠実な若い世代は、自身の世代が蒙った損傷をとりかえそうとして苦闘しているのである。 その努力の一つの表現として、自分たちの新聞一枚も出そうとしている人々に対して、守るべき信義というものは厳然と立っている。それは歴史を偽らぬ・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・まじめな若い精神は、はっきりそういう周囲と抵抗して、経済的な独立とそれと並行する勉学の可能をさがして、苦闘しているのである。ことしは、就職難がいちじるしい。現在、さまざまの理由から労働法規を無視して失業させられている男女は、新しい何かの職業・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫