・・・その親子をば養われたじゃ。その功徳より、疾翔大力様は、ついに仏にあわれたじゃ。そして次第に法力を得て、やがてはさきにも申した如く、火の中に入れどもその毛一つも傷つかず、水に入れどもその羽一つぬれぬという、大力の菩薩となられたじゃ。今このご文・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ 掻口説く声が、もっと蠱惑的に暖く抑揚に富み――着物を脱いでからの形は、あれほかの思案のつかないものだろうか。 ベルトンが、激しい彼女の誘惑に打勝とうとして苦しむのが、却って見物を失笑させるのは、一つは、イサベルの魅力が見物の心を誘・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 見世物小屋の楽屋で、林之助の噂をする時、菓子売の勘蔵に林之助の情事を白状させようと迫る辺、まして、舞台で倒れた後に偶然来た林之助を捉えて、燃えるような口惜しさ、愛着を掻口説く時、お絹は、確に、もう少し余情を持つべきであった。意志の不明・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・ クルベルは、夫人をしつこく口説くのであるが、その、あの手この手は悉く男爵家の陥っている経済的困難を中心とする脅威であり、誘惑である。色と慾とに揺がぬ根をはった強い色彩と行動との中にいつしか読者はつり込まれ、「若しも私が貴方のた・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 私たちは笑いの功徳を十分知っている。それだからといって、もし始終笑うことしか知らない人を見たら、誰しもそれを正常な心理の人として見ることは不可能であろう。 文学精神の明るさというものは、現象に目を奪われて、ものごとの一面に明るさを・・・ 宮本百合子 「文学は常に具体的」
・・・政略上、私たちのおくれた感情を足場として、自党の政権欲の満足のため、不具な憲法改正草案によって反動性を正当化されながら、再びこの私たちを虐げようとするならば、いかにお人好しの私たちでも、それが天皇制の功徳であると、跪きかねるであろうと思う。・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
・・・ それより此の次もう一円増してやる方が、息子の無情な仕打ちを差し引いて功徳になるように思われた。彼女は台所へ戻ると又土瓶を冠って湯を飲んだ。六 勘次は後から追って来る秋三の視線を強く背中に感じ出した。足がだんだんと早くな・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫