・・・ドストイェフスキーの作品の悲劇的な分裂の世界は、ロシアの苦悩が正当なはけぐちとしての人民の革命的方向からはなれた結果の錯乱として、世界的な例を示している。 ヨーロッパ諸国からロシア風の情熱とよばれたロシアの十九世紀から二十世紀のはじめに・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・そうしてドイツの人民は自分の運命というものをナチスのためにふみにじられるいとぐちを開いてしまった。この事実を私どもはよく理解しなければならないと思います。日本の民主化のこういう片輪な状態、云いかえると露骨な妨害によって歪められようとしている・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・小舎の敷藁――若しあるとして――もぐちょぐちょであろう。斑の、いやに人間みたいな顔付の犬は、小舎の中にも居られず、さりとて鎖があるから好きな雨やどりの場所を求めることも出来ない。苦しまぎれに、自分の小舎の屋根の上に登って四つ脚で突立っている・・・ 宮本百合子 「吠える」
・・・それぞれの理論がそれぞれの階級的蓄積と天稟とにしたがって、民主主義文学運動に貢献してゆくいとぐちは多種多彩であってこそ自然である。けれども、どういう門から入ろうと、それが葛のからんだ小門からであろうと、粗石がただ一つころがされた目じるしの門・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・ 昨今は私が何か云うと、愚痴とか厭味とか云ってからかわれることになっている。それだけで何の効果もない。何の役にも立たない。人に利益は与えずに、自分が不愉快な目に逢うのみです。そんなことは私だってしたくはないのです。 現在の文芸界では・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
・・・それにつけても未練らしいかは知らぬが、門出なされた時から今日までははや七日じゃに、七日目にこう胸がさわぐとは……打ち出せば愚痴めいたと言われ……おお雁よ。雁を見てなげいたという話は真に……雁、雁は翼あって……のう」 だが身贔負で、なお幾・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ しかしこの事実の認識はただ「愚痴」という形にのみ現わるべきものでないと思います。愚痴をこぼすのは相手から力と愛を求めることです。相手にそれだけ力と愛とが横溢していない時には、勢い愚痴は相手を弱め陰気にします。我々から愛を求めている者に・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫