・・・その後、大槻玄沢、宇田川槐園等継起し、降りて天保弘化の際にいたり、宇田川榛斎父子、坪井信道、箕作阮甫、杉田成卿兄弟および緒方洪庵等、接踵輩出せり。この際や読書訳文の法、ようやく開け、諸家翻訳の書、陸続、世に出ずるといえども、おおむね和蘭の医・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・今日は二の酉でしかも晴天であるから、昨年来雨に降られた償いを今日一日に取りかえそうという大景気で、その景気づけに高く吊ってある提灯だと分るとその赤い色が非常に愉快に見えて来た。 坂を下りて提灯が見えなくなると熊手持って帰る人が頻りに目に・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・どうです、今年の渡り鳥の景気は。」「いや、すてきなもんですよ。一昨日の第二限ころなんか、なぜ燈台の灯を、規則以外に間〔一字分空白〕させるかって、あっちからもこっちからも、電話で故障が来ましたが、なあに、こっちがやるんじゃなくて、渡り鳥ど・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・悪業を以ての故に、更に又諸の悪業を作る。継起して遂に竟ることなし。昼は則ち日光を懼れ又人及諸の強鳥を恐る。心暫くも安らかなるなし、一度梟身を尽して、又新に梟身を得、審に諸の苦患を被りて、又|尽ることなし。」 俄かに声が絶え、林の中はしぃ・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・技法上の強いリアリスティックな構成力、企画性がこの製作者の発展の契機となっているのである。溝口氏が益々奥ゆきとリズムとをもって心理描写を行うようになり、ロマンティシズムを語る素材が拡大され、男らしい生きてとして重さ、明察を加えて行ったらば、・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・また、たくでは近頃景気がいいんですのよ、という風体だった細君連も、ちがった姿となっている。 そして、これらの変化にはやはり贅沢禁止のいろいろな運動が役にたっているにちがいないのだろう。街のプラタナスの今年の落葉は、「簡素のなかの美しさ」・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・それが契機となって、わたしのぼんやりとしていた人道的善意は、次第に、自分をこめての民衆が発展する歴史の必然の方向を発見して行ったのであった。日本のプロレタリア文学運動が、社会と文学についてのその真実をわたしに知らせたのであった。「日は輝・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・けれども、また他の一方から観察すると、そこに微妙な心理の契機がひそんでもいる。自分をどう解放していいのか分らない女の思い。身もだえする若い妻としての思いに屈して何年もすごして来ていた作者が、その心情の昏迷に飽き疲れて自分という始末のつかない・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・そのような判断そのもののうちにわたしたちの人間的、社会的自我の課題、その自主性と発展の契機がひそんでいる。「わたしたちは、やっと青春をとり戻したばかりだ。この上、戦争は欲しない。」若い人々は、まず基本的命題としてこの自主的発言をした上で・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・とただし書を添えながら、元来友情は、お互が対等であって互に尊敬し合うことのできる矜持ということが重要な契機であるから、奴隷や暴君が真の友情をもち得ないということの強調としていられるのであった。 今の時代の生活の感情のなかに受けとって味わ・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
出典:青空文庫