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・・・女も美しい軽羅を着てベンチへ居並ぶ。デッキへは蝋かなにかの粉がふりまかれる。楽隊も出て来てハッチの上に陣取った。時刻が来ると三々五々踊り始めた。少し風があるのでスカーフを頬かぶりにしている女もある。四つの足が一組になっていろいろ入り乱れるの・・・
寺田寅彦
「旅日記から(明治四十二年)」
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・・・其の古い楓が緑を投げる街路樹の下を、私共は透き通る軽羅に包まれて、小鳥のように囀りながら歩み去る女を見る事が出来ます。しなしなと微風に撓む帽子飾の陰から房毛をのぞかせて、笑いながら扇を上げる女性の媚態も見られます。 けれども此村は只其丈・・・
宮本百合子
「C先生への手紙」