・・・ 隣り座敷の小手と竹刀は双方ともおとなしくなって、向うの椽側では、六十余りの肥った爺さんが、丸い背を柱にもたして、胡坐のまま、毛抜きで顋の髯を一本一本に抜いている。髯の根をうんと抑えて、ぐいと抜くと、毛抜は下へ弾ね返り、顋は上へ反り返る・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・ 隣り座敷の小手と竹刀は双方ともおとなしくなって、向うの椽側では、六十余りの肥った爺さんが、丸い背を柱にもたして、胡坐のまま、毛抜きで顋の髯を一本一本に抜いている。髯の根をうんと抑えて、ぐいと抜くと、毛抜は下へ弾ね返り、顋は上へ反り返る・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・しかし主命ですから反抗する訳にも行きませんので、料理人に命じて秋刀魚の細い骨を毛抜で一本一本抜かして、それを味淋か何かに漬けたのを、ほどよく焼いて、主人と客とに勧めました。ところが食う方は腹も減っていず、また馬鹿丁寧な料理方で秋刀魚の味を失・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
出典:青空文庫