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・・・すべての懸案はただその日、ただその時刻だけであった。甚太夫は本望を遂げた後の、逃き口まで思い定めていた。 ついにその日の朝が来た。二人はまだ天が明けない内に、行燈の光で身仕度をした。甚太夫は菖蒲革の裁付に黒紬の袷を重ねて、同じ紬の紋付の・・・
芥川竜之介
「或敵打の話」
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・・・近頃、健康が勝れないと云う稍々悲観した手紙を受取って居たので、三月には、二人でお訪ねしましょうと云う事が正月頃から懸案に成って居たのである。「去年も今頃だったろう、あれは幾日位だったろうかな 少し暇のある夕飯後など、彼等は、小さい一・・・
宮本百合子
「われらの家」