・・・そこには参謀肩章だの、副官の襷だのが見えるだけでも、一般兵卒の看客席より、遥かに空気が花やかだった。殊に外国の従軍武官は、愚物の名の高い一人でさえも、この花やかさを扶けるためには、軍司令官以上の効果があった。 将軍は今日も上機嫌だった。・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・場主の松川は少からざる懸賞までした。しかし手がかりは皆目つかなかった。疑いは妙に広岡の方にかかって行った。赤坊を殺したのは笠井だと広岡の始終いうのは誰でも知っていた。広岡の馬を躓かしたのは間接ながら笠井の娘の仕業だった。蹄鉄屋が馬を広岡の所・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・何でも短冊は僅か五、六枚ぐらいしか書かなかったろうという評判で、短冊蒐集家の中には鴎外の短冊を懸賞したものもあるが獲られなかった。 日露戦役後、度々部下の戦死者のため墓碑の篆額を書かせられたので篆書は堂に入った。本人も得意であって「篆書・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ ウラジオストックの幼年学校を、今はやめている弟のコーリヤが、白い肩章のついた軍服を着てカーテンのかげから顔を出した。「ガーリヤは?」「用をしてる。」「一寸来いって。」「何です? それ。」 コーリヤは、松木の新聞包を・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・「何で、俺の肩章が分らんのだ! 何で俺のさげとる軍刀が分らんのだ!」 それが不思議だった。胸は鬱憤としていっぱいだった。「もっと思うさまやってやればよかったんだ! やってやらなきゃならんのだった!」 彼は、頭蓋骨の真中へ注意・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・いっそ、破ったほうがいい。いっそ、懸賞募集を狙いましょうか。黙ってる方がかしこいでしょう。然し、太宰治さん、できたら、ぼくに激励のお手紙を下さい。もう四日出勤して五日も経てば、ぼくは腐りの絶頂でしょう。今晩は手紙を書くのがイヤです。明晩明後・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・兵士は病兵の顔と四方のさまとを見まわしたが、今度は肩章を仔細に検した。 二人の対話が明らかに病兵の耳に入る。 「十八聯隊の兵だナ」 「そうですか」 「いつからここに来てるんだ?」 「少しも知らんかったんです。いつから来た・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・そうした処女地を探険するのが今の映画製作者のねらいどころであり、いわば懸賞の対象でなければならない。それでたとえばアメリカ映画における前述のレヴューの線条的あるいは花模様的な取り扱い方なども、そうした懸賞問題への一つの答案として見ることもで・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・また例えば山伏の橙汁の炙出しと見当をつけてから、それを検証するために検査実験を行って詐術を実証観破するのも同様である。「十夜の半弓」「善悪ふたつの取物」「人の刃物を出しおくれ」などにも同じような筆法が見られる。 また一方で、彼の探偵物に・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ある学会で懸賞問題を出して答案を募ったが、その問題は「コップに水を一杯入れておいて更に徐々に砂糖を入れても水が溢れないのは何故か」というのであった。応募答案の中には実に深遠を極めた学説のさまざまが展開されていた。しかし当選した正解者の答案は・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
出典:青空文庫