・・・ 修理は、越中守が引きとった後で、すぐに水野監物に預けられた。これも中の口から、平川口へ、青網をかけた駕籠で出たのである。駕籠のまわりは水野家の足軽が五十人、一様に新しい柿の帷子を着、新しい白の股引をはいて、新しい棒をつきながら、警固し・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・新らしい家と云うものが、ちっとも、贅沢な、フリーボラスな気分を醸さず、素朴な、自分等各々の献物によって形造られ、豊かにされた巣、心の棲家と云う落付きを持つ便利と云う点を云えば、米国風のアパートメントは勝れていましょうが、人間の心の要求の何も・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・皆が互に、互の献物を大切に仕合ってと運ぶべき処が在るのでは無いだろうか、私共の生活を透して、相互に理解し、心から協力し合える範囲が、若し所謂人情の領域にのみ限られているものとしたら、各自の生活は、余り寂しいものである。〔一九二〇年一月〕・・・ 宮本百合子 「断想」
・・・柄本又七郎へは米田監物が承って組頭谷内蔵之允を使者にやって、賞詞があった。親戚朋友がよろこびを言いに来ると、又七郎は笑って、「元亀天正のころは、城攻め野合せが朝夕の飯同様であった、阿部一族討取りなぞは茶の子の茶の子の朝茶の子じゃ」と言った。・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫