・・・ばあるほど、むきな衝突が頻々とあって、今思えばその原因はいろいろ伝統的な親族間の紛糾だの、姑とのいきさつだの、青春時代から母の精神に鬱積していた女性としての憤懣の時ならぬ爆発やらであったわけだが、その激情の渦巻は、決して娘をよけては通らなか・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・当時この作者は、恋愛のいきさつの間で、激情的に、爆発的に女の自我というものを主張した作品を書いた。従来、日本の婦人作家の作品の中では圧しつけられていた婦人の官能の面をもある意味では解放した。その後、この才能を認められていた婦人作家の生活は転・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・あれ等の歌も遺した人々の心の全部を其のような激情が占領していて、花を見ても月を見ても、純粋に花の美しさ月の輝かしさを愛せなかった不幸を、超脱しようとしない心の凝固が、芸術品としての歌に、渾然とした命を与えていないらしい。 これは、まるで・・・ 宮本百合子 「新緑」
・・・という恐怖が目覚めて、大いそぎで涙を拭く彼女は、激情の緩和された後の疲れた平穏さと、まだ何処にか遺っている苦しくない程度の憂鬱に浸って、優雅な蒼白い光りに包まれながら、無限の韻律に顫える万物の神秘に、過ぎ去った夢の影を追うのであった。・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ まるで教室にでもいるように、一斉に立って迎えた中を、辞儀と愛素よい笑とを振撒きながら入って来られる様子を見、自分の心は、悲憤ともいうべき激情に動かされた。 あの平気な顔、自分の仕たことに一つの間違いもなかったのだと云いたげな風。私・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・ 女というものをも、トルストイはツルゲーネフの考えていたように、純情、献身、堅忍と勇気とに恵まれたもの、その気まぐれ、薄情、多情さえ男にとって美しい激情的な存在という風に理想化して理解してはいない。もっと動物的に、或は愚劣に、或は恐ろし・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 構築と激情○Dの熱情が常に作品の中に一への原始的混沌をもたらしている。決して調和に達していない。p.232○生活力の総額の数秒時における痙攣 p.241○彼の作品における 時間と空間との克服の能力は、認・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・それらの作品には、彼女の生活環境と彼女自身のうちにある根深い封建的なものが、反抗と解放への激情と絡みあって、生のまま烈しく噴出している。暗く、重く、うごめく姿があるけれども、そこには、「人間は断じて自滅すべきものではない」という彼女の人民的・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・に応え、思い知れと云う風をされると、自分は失望や悲しみで、猛然と掴みかかりたい激情を覚えるのだ。 若し自分が行くのが不愉快なら、何故フランクに行くな、と云って呉れないのか、 行かせたなら、どうして、もう少し寛大に、自分の娯んで来たこ・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 島木健作氏の諸作を読んで、私は非常に多くのことを感じ、そのある作からはほとんど苦しいほどの激情を喚び醒まされたのである。その感銘から引出された重大なある疑問についてはここにふれず、「風雲」との連関で思い浮ぶただ一つは、島木氏のように新・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
出典:青空文庫