・・・ 空が荒模様になり、不機嫌な風がザワザワ葉を鳴らし出すと、私の内にある未開な原始的な何ものかが不可抗の力で呼びさまされる。凝っと机について知らぬ振などしていられない。私はきっと梢の見えるところまで出かけ、空を眺め、風に吹かれ、痛快なおど・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
人類の祖先たちは、彼らの原始的な生活のもとで、どんなふうに自分たちの発見と智慧とをもちいてきたのだろう。 太古の人類の希望は、幸福に生きたいという単一の強烈な欲求であった。それらの人々は、自分たちに一本の棒の切れはしを・・・ 宮本百合子 「いのちのある智慧」
・・・写真でみると、極めて原始的な方法で染め、織っている。彼女たちの方法は幾百年来の方法である。 日本の軍人が、トランクや荷物の底に、価でない価で「買った」ジャワ更紗を日本に流行させたことを、わたしたちは決して忘れないだろうと思う。 イン・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ごく原始的な表現で、例えばより工合よく体にかける毛皮を縫い合わせたいという気持がいつもあって、或るとき或る人間が先の尖った石か貝の片の一方に糸を通す穴をこしらえて針を発明した。コフマンは、女性に名誉を与えて、そうして人類の生活に初めて針をも・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・そのための強国間の協力、原子爆弾の禁止、人種的差別の撤廃、マーシャル・プランの廃止、植民地住民の自治原則確立、日独に対する講和促進と占領軍の撤退、中国における民主的連立政権の樹立、タフト・ハートレー法の撤廃、非米委員会活動の廃止、基本産業の・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ こんにちファシズムに反対し、世界平和を求め、原子兵器使用の惨虐に抗議している文学者は、その数において、科学者よりも少いとは考えられない。これらの文学者は、それぞれ日本と世界平和とすべての民族の独立のためのアッピールに署名しているし、ふ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ ギリシア人たちが、生命は動く元素から成るといい、デモクリトスが原子論をとなえたのはひろく知られているが、その時から千三四百年経った今日では、電気が発見されていて、人間の生成をふくむ宇宙の諸関係というものがきわめて複雑な相互作用の千変万・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・何しろ原子爆弾さえできた世の中です。天然色の映画さえできております。ですからものを能率的につくるという機械の発展は十九世紀以来驚くべきものなのです。第二次ヨーロッパ大戦ではたくさんの発明がありましたからわかりませんけれども、少くとも第一次ヨ・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・こんにちジョリオ・キューリーが原子力の研究の人類的な方法について語り、それについて行動しているように、文学の方法も語られるべき歴史の段階に来ているのではないだろうかと思う。人間の価値は、こんにちおそろしいテムポで、その真実を露出しつつある。・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・東京ハイキング第九日、柳原子が私娼窟である玉の井へ出かけての記事と筆者の写真とが出ているのであったが、文章はこういう風に始っている。「女には全く用のない玉の井、お蔭様で参観一巡。ここには何百人かしらないが、とても大勢の若い女がうようよしてい・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫