・・・ このような差違の生じた原因の進化論的考究や、両者の美学的価値の比較をここで並べようとは思わない。そういう六かしい問題は別として、現在日本の画界における両つの分派の作品を対照した時に感ずるあるデリケートな差別の裏面には、両派の画家の本来・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・最も卑近な言葉をもって言い現わせば、恒久なる時空の世界をその具体的なる一断面を捕えて表現せよ、ということである。本体を表現するに現象をもってせよ、潜在的なる容器に顕在的なる物象を盛れというのである。本情といい風情というもまた同じことである。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・連句が全体を通じて物語的な筋をもたないから連句は低級なものであると考えるのは、表題音楽が高級で、ソナタ、シンフォニーが低級であるというのと同様である。連句は音楽よりも次元的に数等複雑な音楽的構成から成立している。音と音との協和不協和よりも前・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・いから、今日これを論ずる場合にはどうしてもいったんこれをその主要成分に分析して各成分を一々吟味した後に、これらがいかに組み合わされているか、また時代により地方によりその結合形式がいかに変化しているかを考究しなければならない。これはなかな・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・明暦三年の振袖火事では、毎日のように吹き続く北西気候風に乗じて江戸の大部分を焼き払うにはいかにすべきかを慎重に考究した結果ででもあるように本郷、小石川、麹町の三か所に相次いで三度に火を発している。由井正雪の残党が放火したのだという流言が行な・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ それで火災を軽減するには、一方では人間の過失を軽減する統制方法を講究し実施すると同時に、また一方では火災伝播に関する基礎的な科学的研究を遂行し、その結果を実地に応用して消火の方法を研究することが必要である。 もちろん従来でも一部の・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・不備に対して当事者を攻撃し誹謗する事よりもむしろ当事者の味方になり、そうして一般読者とともにその不備を除去する方法を講究する機関となる事を心がけたいものである。そういう心持ちがもう少しはっきり現われていさえすれば、現在の新聞でももう少し気持・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・たとえその結果が消極的に終わるとしても、その考究の経路には少なからぬ獲物があるであろうと思われる。しかしそれは別問題としても、上記のごとき特殊の部類に属する現象の実験的研究からいろいろな統計的の規則正しさを発見しうるには、いかなる方法をとる・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・もし他日機会があったら、もう少し系統的にこれらの問題を考究してみたいという希望をもっている。 寺田寅彦 「耳と目」
・・・質的に間違った仮定の上に量的には正しい考究をいくら積み上げても科学の進歩には反古紙しか貢献しないが、質的に新しいものの把握は量的に誤っていても科学の歩みに一大飛躍を与えるのである。ダイアモンドを掘り出せば加工はあとから出来るが、ガラスはみが・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
出典:青空文庫