・・・寺田氏の科学的業績を云々する資格はもとよりないのであるけれども、文学的遺業について見ると、寺田氏がこの人生に向った角度にあらそわれぬ明治時代色があり、同時代の食うに困らなかった知識人の高級なディレッタンティズムが漂っているのである。文学的才・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ ブルジョア地主の日本では普選と云っても女はのけもので、特別な投票所をこしらえ、しかも投票の日に労働大衆に公休はよこしません。 ソヴェトの選挙は、相当大きいところではみんな各工場の中で大衆的に行われます。つまり職場でやるのです。これ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・今、私共が見ずにはいられない事実であるけれども、私共は、失敗した今日の現象と、其の背後に潜んでいる希願との、恒久性の差を、明かに見て進まなければ成らないのではあるまいか。世界が趨こうとしている方向は、決して幻想郷ではない。人類の意向は、酔狂・・・ 宮本百合子 「断想」
・・・ 家を引越し、もう少し周囲の高級な、部屋ももう一つ位多い処へ行きたい希望がある。然し、目下の所、いつ其が実現されるか難しい。我々の経済状態では、六七十円の家賃は、あまりうれしくない。高く出すと、出せない時もある心配が要る。此・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・、より輝き、より恒久的な真実の「よさ」をも、見出し、或は見出そうと仕て居られるだろう、先生も育たれた。私も育った。 先生は今何処に被居っしゃいますか。 生命の萌芽が、一寸の幹を所有するまでの専念な営み――。人は其前に頭を垂れる心を持・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・、「歴史攻究法」、「世界文学史」を読む事は落ついてする事が出来た。もうすっかり旅に出たいなんて云う事は忘れたようになってしまった。 成井先生のところから暑中の御見舞を下さった。早速御返事を出して置く。まだ手紙を出さなくっちゃあならないと・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・は事実上高級社員、確かな人物という範囲でだけ動いていて、社内一般の労務者の生活のよろこびの源とはなっていないわけである。ここに、営利会社というものの本質からの撞着の姿があるし、働く男女のおかれている社会の条件のむきつけな露出もあると思う。・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・それなのに、若い女性たち自身心のどこかに持っている、働くのは一時的だという考えは、それらの社会的弱点に抵抗して自身を成長させて行こうとするまじめな恒久的な実力を、若いひとたちの身につけさせない。そして、若い女性たちは、職業についているという・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・この統計によって見ても明かなように高級な智脳活動にはすらりとした背も高いタイプが適し、工場の労働、農業などにはずんぐりで手脚も太短い娘が適しているのである。云いかえれば、今の世の中で下積みの女は、下積みで生涯を過していいように生れているとそ・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 婦人の文化上の創造能力の特質は直感的であり、感性的具体的で、その反面としては恒久性の短いこと、主観的であること、客観性や思意の力に欠けていることがこれまでのあらゆる場合に挙げられて来ているのである。そして、婦人というものはそういう風に・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
出典:青空文庫