・・・『くにのあゆみ』が日本の歴史学的な根拠もとぼしい皇紀をやめて、西暦に統一して書かれたことは、この将来の展望の上からも妥当である。〔一九四六年十月〕 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
・・・その他後期の画面にも使われている。 ロシアでは有名な血の日曜日の行われた一九〇五年に、ケーテの描いた「鍬を牽く人」などの扱い方もシムボリックなところがあってどこかムンクを思わせる。そして、このケーテの内部に交流しているシムボリックな傾向・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・この日ごろ日本の新聞としての公器性が失われていることを遺憾に思っている真面目な人々は、十一月三日のほとんどすべての新聞がデューイ氏当選確定とかき、デューイ氏断然勝たん、共和党早くも祝賀準備と、まるで丸の内へんで見てでも来たような記事をのせ、・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・何処までも 繊細に 何処までも 鋭く而も大らかに 生命の光輝を保つことこそ人間は、芸術は甲斐ある 精神の果実だ。其処に 日が照り 香気がちり朽ちても 大地に種を落す命の ひきつぎて となり得るのだ。私・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・其処に 日が照り 香気がちり朽ちても 大地に種を落す命の ひきつぎて となり得るのだ。私は、謙譲な 一人の侍女それ等の果物を一つ一つみのるがまま、色づくがまま捧げて 神に供える。朝 園を見まわり身体を・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ 光輝ある「十月」ソヴェト政権の確立とともに、ロシアの農民ははじめて土地を自分のものとした。 ┌───────┐ │土地を農民へ!│ └───────┘ この歴史的なスローガンは、一九一七年の二月革命の当時、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ このような楽しみのほかに、私には上元気の午後三時頃、酔ったようになって盛夏の空と青葉の光輝とに見とれる悦びがある。東京にいて、八月の三時は切ない時刻だ。塵埃をかぶって白けた街路樹が萎え凋んで、烈しく夕涼を待つ刻限だ。ここも暑い。日中の・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・支配者たちは、人民の公器たる政府の実力で、これらの大課題を、どのように公的に処置しつつあるだろうか。私たちの毎日の現実に立って答えるならば、政府は、愕くほど私的になっている。政府そのものの命脈を保つこと、その成員の姑息な差しかえ、G・H・Q・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ 従って彼女等は、濃い色と、強い音調と香気と、強い興奮で、轟々と鳴りとどろく、大都会の騒音に辛くも反抗するのでございます。 其故同じアメリカでも、場所によっては、決して騒がしい女性許りではございません。 しっとりと、草の葉のさざ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・或時は、俄に山巓を曇らせて降り注ぐ驟雨に洗われ、或時はじめじめと陰鬱な細雨に濡れて、夏の光輝は何時となく自然の情景の裡から消去ったようにさえ見えます。瑞々しい森林は緑に鈍い茶褐色を加え、雲の金色の輪廓は、冷たい灰色に換ります。そして朝から晩・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫