・・・それだけの地盤の上に、それだけの材料でなんらかの考察を築き上げようとするのである。ちょうど子供がおもちゃの積み木で伽藍の雛形をこしらえようとしているのとよく似た仕事である。それが多少でも伽藍らしい格好になるかならないかもおぼつかないくらいで・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・従って、かえってそういう文献などに精通しない門外漢の幼稚な考察の中からいくらかでも役に立つような若干の暗示が生まれうるプロバビリティーがあるかもしれないと思われる。また一方で自分は、従来自分の目にふれたわが国での映画芸術論には往々日本人ばな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・他日機会があったら、もう少し詳しくこれらのおのおのについて検討を試み、さらにその結果に基づいて映画の未来の可能性について具体的な考察を遂行したいと思っている。 なお、このほかに、写真レンズの影像の特異性や、フィルムの感光能力の特異性から・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・こんなことは右の句の鑑賞にはたいした関係はないことであろうが、自分はこういう瑣末な物理学的の考察をすることによってこの句の表現する自然現象の現実性が強められ、その印象が濃厚になり、従ってその詩の美しさが高まるような気がするのである。・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
・・・ それで、ただここにはほんの一つの空想、ただし多少科学的の考察に基づいた空想あるいは「小説」を備忘録として書き留めておく。もしこれらの問題に興味をもつほんとうの考証家があればありがたいと思うまでである。 一 ・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ 案内者のいう所がすべて正しく少しの誤謬がないと仮定しても、そればかりに頼る時は自身の観察力や考察力を麻痺させる弊は免れ難い。何でも鵜呑みにしては消化されない、歯の咀嚼能力は退化し、食ったものは栄養にならない。しかるに如何なる案内者とい・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ それにもかかわらず、以上の考察は一つの興味ある空想を示唆する。すなわち、人間の思惟の方則、情緒の方則といったようなものがある。それは、まだわれわれのだれも知らない微分方程式のようなものによって決定されるものである。われわれはその式自身・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・従来の地名の研究には私の知る限りこの必要条件の考察が少しも加わっていないではないかと思われる。この条件が何であるかについては他日また愚見を述べて学者の批評を仰ぎたいと思っている。 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・ある時いた下男などはたんねんに繩切れでわなを作って生けがきのぬけ穴に仕掛け、何匹かの野猫を絞殺したりした。甥のあるものは祖先伝来の槍をふり回して猫を突くと言って暗やみにしゃがんでいた事もあった。猫の鳴き声を聞くと同時に槍をほうり出しておいて・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・て、二進の一十、二進の一十、二進の一十で綺麗に二等分して――もし二十五人であったら十二人半宛にしたかも知れぬ、――二等分して、格別物にもなりそうもない足の方だけ死一等を減じて牢屋に追込み、手硬い頭だけ絞殺して地下に追いやり、あっぱれ恩威並行・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫