・・・泥棒をして懲役にされた者、人殺をして絞首台に臨んだもの、――法律上罪になるというのは徳義上の罪であるから公に所刑せらるるのであるけれども、その罪を犯した人間が、自分の心の径路をありのままに現わすことが出来たならば、そうしてそのままを人にイン・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ 昭和十一年三月という、今日では殆ど用に足りない古い統計でさえ、甲種実業学校の入学志願者は十九万人近く、入学者は十万五千三百九十八人という数を示している。 昭和七年に比べると、志望者は七万余人、入学者は二万人近く増して来ていたのであ・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・中国地方の或る工業地帯が故郷である若い人が、この間の徴兵検査で、一年前肺炎をやっている体で甲種になって、おどろいている。自分がその体で甲種になったおどろきは、同じとき裸になって並んだ工場の青年たちが余りひどい体をしていたこととの対比で、一層・・・ 宮本百合子 「若きいのちを」
出典:青空文庫