・・・を主題として交響楽を創り、ドラクロアのアトリエではユーゴオの小唄が口誦まれた。そして、ユーゴオ、ゴオチェ、メリメのような作家たちは、創作の間に絵を描いた。実に彼等は「すべての芸術において美しい色彩や情熱や文体を」ねらったのであった。 け・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・誰かが低い声で、問題になった初秋や名も文月の恋の謎と口誦んだ。 さっきから、あっちの小高い亭にも、鳥打帽をかぶった若者が頻りに楽焼の下絵を描いている。たった一人で、前に木版ずりの粉本を置き、余念ない姿だ。亭のまわりの尾花・・・ 宮本百合子 「百花園」
・・・ 極言すれば、理想を高唱するものも、それに鼓舞されて一躍新生涯を創始しようとする者も、またはそれを傍観するものも、共に、貧弱な沈潜力の所有者であるようにさえ感ぜられる。 強固に、深刻に人生の意識、人類の内容を考察する者が、どうしてよ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・然も一種の世間師だから期限付のファッシストを宣言したところ思わず人を哄笑させる。 二 直木三十五の宣言を読んだ時、自分は一つの昔噺を想い出した。 ある恐ろしい山道で一人の百姓が天狗に出遭った。天狗は既に・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・これは考証によれば「アンピール」様式にひどく似ている。では、今日のそういう型をネオ・アンピールと呼ぶとしたらそれは正鵠を得て、内容を説明しているであろうか? 正確でも正当でもない。なぜなら、「アンピール式」が発生した当時のフランスの経済的、・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ これは、みんなの哄笑と猛烈な抗議的拍手をよび起した。 議事録はと見れば、そもそも一九三〇年度の作家同盟の文学活動を要約すれば云々というスローガンが真黒に塗り消されているばかりではない。三一年の活動方針のところでは、「その方針を決定・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・そうして、そういう虚栄心や恐怖心があらゆる激しい好尚にとってかわっていた。シャルル九世時代の若いフランス人と云えば、そういうはげしい好尚に血潮をわかせていたものだが。○p.229 位階あるものが能ある者に対する憤懣。これが十九世・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・――彼も、ヴィクトリア時代の考証癖を脱し切れず、自分がこれはどう感じ見るかと思うより先に、シェークスピアやホーマーの文句を思い出し、そのものを徹し、その描写にまとめて、自分の直観に頼らない、第二流文学者――否、芸術家的素質しか持たなかったか・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
・・・日曜日の午後は半ズボンで過す英国人らしく哄笑しつつM氏は説明するだろう。 ――今更そんなものいくら見たってしょうがありゃしませんよ。今日では英国人自身が紳士なんて言葉は便所にしか役に立ってないって云ってる位だもの。……ああ云うところはね・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・あれを一層高尚にすれば、政治が大芸術になるねえ。君なんぞの理想と一致するだろうと思うが、どうかねえ。」 木村は馬鹿々々しいと思って、一寸顔を蹙めたくなったのをこらえている。 そのうち停留場に来た。場末の常で、朝出て晩に帰れば、丁度満・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫