・・・ 太古の祖先等は、出生と死――発生と更新の律動を大きな宇宙の波動と感じて生活していたに違いありません。今の私共のように外面的にこせこせと、一年二年など、数えあげていたのではないでしょう。生れ出た人間は、太陽を浴び、雨に濡れ、朝に働き夜に・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・ナポレオンの残忍性はルイザが藻掻けば藻掻くほど怒りと共に昂進した。彼は片手に彼女の頭髪を繩のように巻きつけた。――逃げよ。余はコルシカの平民の息子である。余はフランスの貴族を滅ぼした。余は全世界の貴族を滅ぼすであろう。逃げよ。ハプスブルグの・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・――予は病理的に昂進した欲望をもって破壊に従事した。行き過ぎた破壊は予を虚無の淵にまで連れて行った。偶像破壊者の持つ昂揚した気分は、漸次予の心から消え去った。予はある不正のあることを予感した。反省が予の心に忍び込んだ。そこで打ち砕いた殻のな・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・そうしてこの感激が彼らの生活全体を更新しないではやまない力となったに相違ない。これは私の推測である。しかしこの推測なくしては私は古代の芸術をも文化をも解することができない。 もとより私は当時の人々のすべてがこうであったというのではな・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫