・・・というような純文芸雑誌が現われて、露伴紅葉等多数の新しい作家があたかもプレヤデスの諸星のごとく輝き、山田美妙のごとき彗星が現われて消え、一葉女史をはじめて多数の閨秀作者が秋の野の草花のように咲きそろっていた。外国文学では流行していたアーヴィ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ いちょうの黄葉は東京の名物である。しかしいくらとっても写真にはあの美しさは出しようがない。そのいちょうも次第に落葉して、箒をたてたようなこずえにNWの木枯らしがイオリアンハープをかなでるのも遠くないであろう。そうなれば自身の寒がりのカ・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・この大きな蓮の葉は多分ヴィクトリア・レジアの広葉を指すものと思われる。また『武道伝来記』には、ある武士が人魚を射とめたというのを意地悪の男がそれを偽りだという。それを第三者が批評して「貴殿広き世界を三百石の屋敷のうちに見らるゝ故なり。山海万・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ ここで自白しなければならない事は、私等が交番へはいると同時に、私は蟇口の中から自分の公用の名刺を出して警官に差出した事である。事柄の落着を出来るだけ速やかにするにはその方がいいと思ってした事ではあるが、後で考えてみると、これは愚かなそ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 六 干支の効用 去年が「甲戌」すなわち「木の兄の犬の年」であったからことしは「乙亥」で「木の弟の猪の年」になる勘定である。こういう昔ふうな年の数え方は今ではてんで相手にしない人が多い。モダーンな日記帳にはその年・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ことに今年は実際に小春の好晴がつづき、その上にこの界隈の銀杏の黄葉が丁度その最大限度の輝きをもって輝く時期に際会したために、その銀杏の黄金色に対比された青空の色が一層美しく見えたのかもしれない。 そういうある日の快晴無風の午後の青空の影・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・戸袋の前に大きな広葉を伸ばした芭蕉の中の一株にはことし花が咲いた。大きな厚い花弁が三つ四つ開いたばかりで、とうとう開ききらずに朽ちてしまうのか、もう少ししなびかかったようである。蟻が二三匹たかっている。俊坊が急に泣き出したか・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・ いつであったか、街燈の照明の影響でこの木の黄葉落葉に遅速があるということが、どこかの通俗科学雑誌の紙上で問題になったことがあるように記憶するが、しかし現在の新芽の場合では、街燈との関係はどうもあまりはっきりしないようである。 本郷・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・自分の関係しているある研究所の居室の室外にこの木の大木のこずえが見えるが、これが一様に黄葉して、それに晴天の強い日光が降り注ぐと、室内までが黄金色に輝き渡るくらいである。秋が深くなると、その黄葉がいつのまにか落ちてこずえが次第にさびしくなっ・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・この簡単な言葉に迷わされて感覚というものの基礎的の意義効用を忘れるのはむしろ極端な人間中心主義でかえって自然を蔑視したものとも言われるのである。 寺田寅彦 「物理学と感覚」
出典:青空文庫