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・・・人に頼まれたる者は、然様のうては叶わぬ。高禄をくれても家隷に有ちたいほどの者ではある。……しかし大すじのことが哀れや分って居らぬ、致方無い、教えの足らぬ世で、忠義の者が忠義でないことをして、忠義と思うて死んで行く。善人と善人とが生命を棄てあ・・・
幸田露伴
「雪たたき」
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・・・「ほかの方々は高禄を賜わって、栄耀をしたのに、そちは殿様のお犬牽きではないか。そちが志は殊勝で、殿様のお許しが出たのは、この上もない誉れじゃ。もうそれでよい。どうぞ死ぬることだけは思い止まって、御当主にご奉公してくれい」と言った。 五助・・・
森鴎外
「阿部一族」