-
・・・また山を越えると、踏まえた石が一つ揺げば、千尋の谷底に落ちるような、あぶない岨道もある。西国へ往くまでには、どれほどの難所があるか知れない。それとは違って、船路は安全なものである。たしかな船頭にさえ頼めば、いながらにして百里でも千里でも行か・・・
森鴎外
「山椒大夫」
-
・・・自分の力の極限を経験することは、やがてその極限を乗り超える事の前提である。我を滅し得ず、愛の力の足りないという悔いは、我を滅して大いなる愛の力に動くことの準備である。 自己否定は今の自分にとっては要求である。しかしこの要求が達せられた時・・・
和辻哲郎
「自己の肯定と否定と」