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・・・上蒲団の一枚を四つに折って顔の上に乗せたまま、両手で抱きかかえているので、彼の寝姿は座蒲団を四五枚顔の上に積み重ねているように見えて滑稽だった。どういう夢を見ているものだろうかと、夜中ときどき梶は栖方を覗きこんだ。ゆるい呼吸の起伏をつづけて・・・
横光利一
「微笑」
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・・・洋画家の理想画や歴史画が幻想の不足のために滑稽に堕している間に、日本画家がこの方面である程度の成功を見せているのは、右のごとき事情にもとづくとも考えられる。 このことは歴史画のみならず、一般に複雑な情緒や事件を現わす画についても言える。・・・
和辻哲郎
「院展遠望」