・・・なる者が、学問を尊び俗世界を賤しむこと、両様ともにはなはだしきにすぎ、高尚至極なる学問の型の中に無理に凡俗を包羅して、新奇の形を鋳冶せんとして、かえってその凡俗を容るることはできずして、大切なる教育を孤立せしめ、自から偏窟に陥りたるものとい・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・は、人間の善意が、次第に個人環境のはにかみと孤立と自己撞着から解きはなされて現代史のプログラムに近づいてゆく、その発端の物語としてあらわれる。 一九四九年六月〔一九四九年七月〕・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・一篇を読んで最も強く印象されることは、亀のチャーリーという中年の男が全く孤立的に書かれていることである。生活的な面では住んでいるアメリカのプロレタリア大衆とも、故国日本の革命的大衆ともなんら切実な交流を持っていない。ポッツリ切りはなされてい・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・当時の権力はまんなかに治安維持法の極端な殺人的操法をあらわに据えて、それで嚇し嚇し、一方では正直に勇敢だった人々を益々強固な抵抗におき、孤立させ、運動を縮みさせ、他面では、すべての平凡な心情を恐怖においたてて、根本は治安維持法に対するその恐・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ 一九三〇年の党大会後「ラップ」が自己批判して、工場、クラブ内の文学研究会指導方針を変更したことは前回に書いた。 孤立的な余技的趣味への閉じこもりを排撃しろ。 文学研究会員は大衆的に壁新聞、工場新聞へ動員され、活溌な文学活動を通・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・一九五〇年度の文学現象のこのような特性は、それ自身として決して孤立した社会現象ではないのである。 そのようなこんにち、一方では、社会的・歴史的な人類としてわれわれが生きている証左たる、理性の覚醒としての文学、を要望する思いが、切実である・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・遙かむこうに、もっくりと、この地方独特に孤立した山が一つ見えていてその前景は柿が色づき、女郎花が咲く細かい街裏の情景である。 私たちの用事は、この町の公会堂にあった。ひるになったとき、先発している人の弁当をもって、私が公会堂へゆくことに・・・ 宮本百合子 「琴平」
・・・作家の社会的孤立化に対する自覚と警戒、その対策が、文学の大衆化の呼声となって現れて来たのは、本年初頭からのことなのである。 こういう事情でとりあげられているきょうの文学の大衆化の問題について、二つの問題が常にこんぐらがってもち出されて来・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・父王の千人の妃たちの憎悪と迫害がこの新王の美しい妃に集まり、妃を孤立させるために相人を利用して新王を遠い地方へ送り出してしまう。守り手のない妃のところへは武士をさし向け、妃を山中に拉して首を切らせる。そうして、ここにも首なき母親の哺乳が語ら・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・人に頼ることを恥じるとともに、人に活らき掛けることをも好まなかった。孤立が誇りであった。友情は愛ではなくてただ退屈しのぎの交際であった。関係はただ自分の興味を刺戟し得る範囲に留まっていた。愛の眼を以て見れば弱点に気づいてもそれを刺そうという・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫