・・・何の関係もない色々の工場で製造された種々の物品がさまざまの道を通ってある家の紙屑籠で一度集合した後に、また他の家から来た屑と混合して製紙場の槽から流れ出すまでの径路に、どれほどの複雑な世相が纏綿していたか、こう一枚の浅草紙になってしまった今・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・たとえばわれわれの世界では桶の底に入れた一升の米の上層に一升の小豆を入れて、それを手でかき回していれば、米と小豆は次第に混合して、おしまいには、だいたい同じような割合に交じり合うのであるが、この状況を写した映画のフィルムを逆転する場合には、・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・また南洋の言語中には従来の言語学者の説のごとく世界じゅうの言語が混合しているとすれば逆に遠い外国の意外のへんにも同じ要素が認められはしないかという疑いが起こる。それで試みに同型の疑いのある火山名を次ページの表に列挙して将来の参考に供しておき・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・また構造物の模型実験が従来はいわゆる力学的相似にかまわず行われているのに飽き足らず、この点について合理的な模型を作る方法を考案し、その一例としてパラフィンの混合物で二階建日本家屋の模型を作りその振動を験測したりした。これから進んで実際の家を・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・それが無意識な軽微の慢性的郷愁と混合して一種特別な眠けとなって額をおさえつけるのであった。この眠けを追い払うためには実際この一杯のコーヒーが自分にはむしろはなはだ必要であったのである。三時か四時ごろのカフェーにはまだ吸血鬼の粉黛の香もなく森・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・例えば従順と倨傲と、あるいは礼譲とブルタリティと、二つの全く相反するものが互いに密に混合して、渾然としたものに出来上がったとでも云ったらよいか。これが邪魔になって、私はどうしてもこの階級の人達に対して親しみを感じる訳に行かない。 それで・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・無色の液体を二種混合するとたちまち赤や黄に変り、次に第三の液を加えるとまた無色になると云ったようなのを幾種類か用意してもらって、近所の友達を集めては得意になって化学的デモンストラチオンをやって見せたのであった。いつかこの若先生のところで顕微・・・ 寺田寅彦 「追憶の医師達」
・・・古いドイツやスペインあたりを思わせるような空気が、最も新しい西欧芸術の香と混合してそこに一種のグロテスクに近いものが生れている。同じ事はある派の日本画についても云われる。 ロシアのバレー作家のマッシンがある人の問に答えて、「見玉え。今の・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・実際アイヌの先祖の言葉であるのか、また我々の先祖の言葉が今のアイヌの言語に混入しているのか、あるいは朝鮮、支那、前インド、南洋から後に渡来したのがアイヌの先祖と吾等の先祖の言語に混合しているのかそれはなかなか容易に決定し難い問題である。・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・そうしてさらにまた山幸彦・海幸彦の神話で象徴されているような海陸生活の接触混合が大八州国の住民の対自然観を多彩にし豊富にしたことは疑いもないことである。 以上述べきたったような日本の自然の特異性またそれによって規約された日本人の日常生活・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫