・・・中学生は、工場に働く人々は、渾名をつけることの名人である。兵隊も渾名をつけることはうまい。どんなしかつめらしい髭を生やしていても彼等から渾名をつけられることは避けられない。渾名は大衆的な批判である。青年が渾名をつけることの名人であるという一・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・スパイは当時日本共産党東京地方に活動していた渾名亀こと高橋であった。一九三三年は文学的には殆ど活動不可能の状態であった。左翼に対する弾圧は、ジャーナリズムの上にプロレタリア作家の活動する余地を与えなかったし、私個人の生活事情から言っ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・の意味で彼等にとっても一つの社会的刺戟、張り合いとなり、新たな社会への道と新たな文学発生の可能性とを感じさせていたプロレタリア文学運動の一時的後退は、ブルジョア・インテリゲンツィア作家達をも、社会的な混迷・無力感に悩したのであった。 今・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・其人の圏境、その人の持って生れて来たに違いない内在力などが、明に頭に考えられるより先に、自他を混同した我等の不安、混迷になってしまうのである。 人は、忽ちその一事実の上に絶対価値批判を組立てようとする。或る概論の実証とし、また反証としよ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・ もし、おのおのの主人公をして事そこに到らざるを得ないようにした錯綜、また〔三字伏字〕配置された紛糾混迷などを描き出して、せめては悲劇的なものにまで作品を緊張させ得たら、人は何かの形で今日の現実に暴威をふるう権力の害悪について真面目な沈・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・ これらの人々の内心がどんなカラクリで昏迷していればとて、文化上のガンジーさんの糸車にしがみついて、人類の進歩をうしろへうしろへと繰り戻して行きたいのであろうか? 亀井氏の説に従えばレーニンは未来を担う子供達を愛称しながら「遙かなる憧れ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・女性の先輩たちの動きにその混迷が見られたし、文学、美術、科学の面でもそれぞれの形で同様のことがあった。 今年は、世相としては一層いりくんだ現象が見られるようになるであろうが、それが予想されるからこそ猶私たちは、自分の生活を内と外とから見・・・ 宮本百合子 「身についた可能の発見」
・・・作家も評論家も、この混迷からまったく自由にはなっていない。日本の民主主義革命の現在の本質をはっきりつかまないところからおこるブルジョア民主的な自我確立論、または、実際の批評にあらわれたような部分的形象論のなかに作品全体の評価を埋没させてしま・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・だから、自身生かしきれぬ純な情感に苦しむとき、その無力と躊躇と昏迷した考えをてきぱきと解明して、後からつよく押し出すものよりは、音楽にしろ、映画にしろ、小説にしろ、あるままの生活の感情を認めて、一緒にたゆたって、ほのかになって、眠らしてくれ・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
・・・これはお爺いさんが為めにする所あって布団をまくるのだと思って附けた渾名である。そしてそれが全くの寃罪でもなかったらしい。 暮に押し詰まって、毎晩のように忘年会の大一座があって、女中達は目の廻るように忙しい頃の事であった。或る晩例の目刺の・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫