・・・ 黒田君の買って来た樅の木は小ぢんまり植木鉢におさまり、しかも二寸ぐらいの五色のローソクを儀式どおり緑の枝々につけている。 灯がついたら銀のピラピラが樅の枝で氷華のように輝いてキレイだ。 夜がふけて見たら、サモワールの湯気で、凍・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
・・・翌日になって見ると、五色の紙に物を書いて、竹の枝に結び附けたのが、家毎に立ててある。小倉にはまだ乞巧奠の風俗が、一般に残っているのである。十五六日になると、「竹の花立はいりませんかな」と云って売って歩く。盂蘭盆が近いからである。 十八日・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・六 正誤表に載せてある誤には、誤植もあれば、誤写もある。原稿は私の書いたのを、筆工に写させた。それが印刷所に廻ったのである。原稿を口授して筆受させたのだと云う人があるが、そうではない。誤植や誤写の外に、誤訳がある。誤植や誤写・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・ ここは四方の壁に造りつけたる白石の棚に、代々の君が美術に志ありてあつめたまいぬる国々のおお花瓶、かぞうる指いとなきまで並べたるが、乳のごとく白き、琉璃のごとく碧き、さては五色まばゆき蜀錦のいろなるなど、蔭になりたる壁より浮きいでて美わ・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫