・・・明かに×××的意義を帯びていた日清戦争に際して、ちょうど、国民解放戦争にでも際会したるが如き歓喜をもらしている。また、威海衛の大攻撃と支那北洋艦隊の全滅を通信するにあたっては、「余は、今躍る心を抑へて、今日一日の事を誌さんとす」と、はじめて・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ と原は心に繰返したのである。再会を約して彼は築地行の電車に乗った。 友達に別れると、遽然相川は気の衰頽を感じた。和田倉橋から一つ橋の方へ、内濠に添うて平坦な道路を帰って行った。年をとったという友達のことを笑った彼は、反対にその友達・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・侘しい再会である。共に卑屈に笑いながら、私たちは力弱く握手した。八丁堀を引き上げて、芝区・白金三光町。大きい空家の、離れの一室を借りて住んだ。故郷の兄たちは、呆れ果てながらも、そっとお金を送ってよこすのである。Hは、何事も無かったように元気・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・私はわざと手段を講じてクラスの最下位にまで落ちた。大学へはいり、フランス語が下手で、屈辱の予感からほとんど学校へ出なかった。文学に於いても、私は、誰のあなどりも許すことが出来なかった。完全に私の敗北を意識したなら、私は文学をさえ、止すことが・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・この卓や腰掛が似ているように、ここに来て据わる先生達が似ているなら、おれは襟に再会することは断じて無かろう。」 こう思って、あたりを見廻わして、時分を見計らって、手早く例の包みを極右党の卓の中にしまった。 そこでおれは安心した。しか・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・でこの天狗煙草の標本に再会して本当に涙の出る程なつかしかったが、これはおそらく自分だけには限らないであろう。天狗がなつかしいのでなくて、その頃の我が環境がなつかしいのである。 官製煙草が出来るようになったときの記憶は全く空白である。しか・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・安政元年十一月四日五日六日にわたる地震には東海、東山、北陸、山陽、山陰、南海、西海諸道ことごとく震動し、災害地帯はあるいは続きあるいは断えてはまた続いてこれらの諸道に分布し、至るところの沿岸には恐ろしい津波が押し寄せ、震水火による死者三千数・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・の峠を越そうとは予期しなかったが、そのおかげで若い日の学生時代の幻影のようなものを呼び返し、そうしてもう一度若返ったような錯覚を起こさせる機縁に際会するのである。 それはとにかく、学生時代に試験が無事にすんだあとの数日間はいつでも特別に・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・そうしてその年以来他の草花は作るが虞美人草はそれきり作らないので、この無慈悲な花いじめを繰り返す機会に再会することができない。 四 カラジウムを一鉢買って来て露台のながめにしている。芋の葉と形はよく似ているが葉脈・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ 北極をめぐる諸科学国が互いに協力して同時的に気象学的ならびに一般地球物理学的観測を行なういわゆるインターナショナル・ポーラー・イヤーに際会してソビエト政府は都合八組の観測隊を北氷洋に派遣した。その中の数隊は極北の島々にそれぞれの観測所・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
出典:青空文庫