・・・なぜだというと、多くの学生が大学を出る。最高等の教育の府を出る。もちろん天下の秀才が出るものと仮定しまして、そうしてその秀才が出てから何をしているかというと、何か糊口の口がないか何か生活の手蔓はないかと朝から晩まで捜して歩いている。天下の秀・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・だからして記憶の最高度はもっとも明暸なる上層の意識で、その最低度はもっとも不明暸なる下層の意識に過ぎんのであります。 すると意識の連続は是非共記憶を含んでおらねばならず、記憶というと是非共時間を含んで来なければならなくなります。からして・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・故に哲学の最高原理は、矛盾的自己同一的たらざるを得ない。 知識は単に形式論理の立場から成立するのではない。知識は何らかの意味においての直観を含んでいなければならない。然らざれば、客観的知識ではない。私の直観というのは、終が始に含まれてい・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ショーペンハウエルの説によれば、詩人と、哲学者と、天才とは、孤独であるように、宿命づけられて居るのであって、且つそれ故にこそ、彼等が人間中での貴族であり、最高の種類に属するのだそうである。 しかし孤独で居るということは、何と云っても寂し・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・ 我が輩ひと通りの考にては、この言はまったく俗吏論にして、学者の心事を知らざるものなりと一抹し去らんとしたれども、また退いて再考すれば、学者先生の中にもずいぶん俗なる者なきに非ず、あるいは稀には何官・何等出仕の栄をもって得々たる者もあら・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・まに吹鑠かせばなだれ落るかね鑠くれば灰とわかれてきはやかにかたまり残る白銀の玉銀の玉をあまたに筥に収れ荷緒かためて馬馳らするしろがねの荷負る馬を牽たてて御貢つかふる御世のみさかえ 採鉱溶鉱より運搬に至るまでの光景仔細に写・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 黒板には「最高の偽は正直なり。」と書いてあり、先生は説明をつづけました。「そこで、元来偽というのは、いけないものです。いくら上手に偽をついてもだめなのです。賢い人がききますと、ちゃんと見わけがつくのです。それは賢い人たちは、その語・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・人間の美こそ、女性の美の最高のものです。〔一九四八年四月〕 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・ということは、その時代の常識の最高の線についてだけ云われることではなく、むしろ、最低線について云われるべきことです。その最低線がどの程度まで歴史の客観的な前進に一致した認識と行動に向ってきているかということこそが、進歩のめやすです。だから、・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ けれども、作業場といえば、おのずから採光や換気のことも考えられる。日本が世界第一の結核国であり、若い女の死亡率が最高であることも考えられる。 工場の昨今では、早出、残業、夜業は普通であるし、設備の不十分な下請け工場の簇出と不熟練工・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
出典:青空文庫