・・・ 十八等官でしたから役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし俸給もほんのわずかでしたが、受持ちが標本の採集や整理で生れ付き好きなことでしたから、わたくしは毎日ずいぶん愉快にはたらきました。殊にそのころ、モリーオ市では競馬場を植物園に拵え直・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 二 アメリカ大統領選挙の結果が発表され、トルーマンの当選が知らされたと時をおなじくして、東京の市ヶ谷では、極東軍事裁判の最終段階の法廷が再開された。トルーマンが政策として、平和のための強国間の協力、アメリ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・カールは赤いインクで刷られた『新ライン新聞』の最終版にケルンの労働者への訣別の辞をのせ、イエニーはもちものを質屋に入れ、夫妻はケルンを発った。 まずカールが、次いでイエニーと二人の子供とがパリに赴いたが、フランス政府はマルクス一家を気候・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ また、先頃フィリッピンのバシラン島附近で高麗鶯の新種を発見して博物学界に貢献した、博物採集を仕事としている山村八重子さんの自分の仕事に対する愛情は、すべての事情からいわゆる商売気は離れています。彼女には商売気を必要としない生活の好条件・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・彼等の最終の呪文は、我国古来の美風を忘れて、徒に浮薄な米国婦人等に其の範をとるのは杞うべき事、恥ずべき事である、と云うのに終りますでしょう。 我国古来の美風――友よ、其なら貴方はその美風が如何なるものであるか御説明下さいますか? 彼は、・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・夏休みには植物採集をさせますとか、科学博物館へつれてゆきますとか云う、それだけが厚みの全部ではないと思われる。 つい三四日前のことであったが、夕飯のすんだ餉台のところで、家のものと夕刊を見ていた。丁度『日の出』という大衆雑誌の広告が出て・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・ウラジーミル大公の食堂に今日一皿二十カペイキのサラダがトマトと胡瓜の色鮮やかに並び、シベリアの奥で苔の採集を仕事としている背中の丸い白い髯の小学者が妻と木彫のテーブルについているのを眺めることは絶対に不愉快でありえない、しかし、ゴーリキー自・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・十八年度最終の出版整備が公表されて程なくのことである。 今日の本やの気分というものを犇と感じつつ見ると「青眉抄」上村松園とある。「おや、珍しい本だこと」「さすがに装幀もようござんすね」そう云ったきり一冊しか出さないのである。・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・日曜は十一時頃から教会に行き、昼餐は料理店ですませて市外の公園にゴルフをしに行ったり夫婦で夕暮まで郊外の野道を植物採集に逍遙する。 家に帰って空腹に美味な晩食をとり、湯を浴び、熟睡して、更に新鮮な月曜日を迎えるのです。 勿論、右のよ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・か新しい運動に入ったから勝手が違って書けないという風に理解した人もあったらしいし、また或る一部には、恰度小林多喜二があのように短かい生涯を終ったについて、まるで当時の作家同盟が彼をあのように痛憤すべき最終に立ち到らせたと云ったと同じく、私も・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
出典:青空文庫