・・・ 流石は外国人だ、見るのも気持のいいようなスッキリした服を着て、沢山歩いたり、どうしても、どんなに私が自惚れて見ても、勇気を振い起して見ても、寄りつける訳のものじゃない処の日本の娘さんたちの、見事な――一口に云えば、ショウウインドウの内・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・左れば此一節は女大学記者も余程勘弁して末段に筆を足し、婦人の心正しければ子なくとも去るに及ばずと記したるは、流石に此離縁法の無理なるを自覚したることならん。又妾に子あらば妻に子なくとも去るに及ばずとは、元来余計な文句にして、何の為めに記した・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ お医者の云った事は、お君に解らなかったけれ共、十中の九までは、長持ちのしない、骨盤結核になって、それも、もう大分手おくれになり気味であった。 流石のお金も、びっくりして、物が入る入ると云いながら翌日病院に入れて仕舞った。 いよ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・何処となく薄ら時雨れた日、流石に自分もぬくぬくとした日向のにおいが恋しく感じられたのである。来年の花の用意に、怠りなく小さい芽を育てて居る蘭の鉢などを眺めながら、何心なく柱に倚って居ると、頻りに鳥籠が騒々しい。 障子が一枚無人の裡に開け・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・ときくと「いんえ、そうじゃあありませんが足人なみはずれて大きいんで田舎でもあつらえでなくっちゃあないから四十五銭はきっととられますわい」と云って肩をゆすって笑う。「田舎でもねー」と流石大足の私も十二文ノコウ高には少々驚かされる。二三町行くと・・・ 宮本百合子 「大きい足袋」
・・・最後に、お君が復讐したと知って、断末魔の苦しみの中から、見るも物凄い快心の笑を洩す辺。流石と思われるものがあった。 けれども、全体を通じ、忠実な少女お君に、主人の仇討ちを思い立たせるほど纏々としてつきない林之助への執着が統一した印象とな・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・おなかが痛いって寝てるって云うと、幾何いるんだ、十円下さい、十円なんているまいって云うから、今時医者に一遍かかったって五円とられるんですよ、貴方病人を見殺しにするんですかって云うとね、流石のおやじ、事ムの人におい、出してやれってので貰って来・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・ 今の分では花などは咲きそうにもないから一層抜いてしまった方がいいかとも思われるが、水々しく柔いその葉を見ると、流石そうも仕かねる。 鶏舎に面した木戸の方へ廻ると十五の子の字で、雨風にさらされて木目の立った板の面に白墨で、 花園・・・ 宮本百合子 「後庭」
・・・ 露伴先生のは、思想がいかにも卓越した、流石は禅学を深くさぐられた先生だけあると思われる。 同じ、馳落を書かれても露伴先生のは、どっかすっきりした禅めいたところがある。 対髑髏 にしても若しあれを紅葉山人が書かれたものとしたら、・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・鯉も麓なる里より持てきぬというを、一尾買いてゆうげの時まで活しおきぬ。流石に信濃の国なれば、鮒をかしらにはあらざりけり、屋背の渓川は魚栖まず、ところのものは明礬多ければなりという。いわなの居る河は鳳山亭より左に下りたる処なり。そこへ往かんと・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫