・・・その旗は算木を染め出す代りに、赤い穴銭の形を描いた、余り見慣れない代物だった。が、お蓮はそこを通りかかると、急にこの玄象道人に、男が昨今どうしているか、占って貰おうと云う気になった。 案内に応じて通されたのは、日当りの好い座敷だった。そ・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・「はい、卜をいたしますが、旦那様、あの筮竹を読んで算木を並べます、ああいうのではございません。二三度何とかいう新聞にも大騒ぎを遣って書きました。耶蘇の方でむずかしい、予言者とか何とか申しますとのこと、やっぱり活如来様が千年のあとまでお見・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・沼南が大隈参議と進退を侶にし、今の次官よりも重く見られた文部権大書記官の栄位を弊履の如く一蹴して野に下り、矢野文雄や小野梓と並んで改進党の三領袖として声望隆々とした頃の先夫人は才貌双絶の艶名を鳴らしたもんだった。 その頃私は番町の島田邸・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・『東京がなんだ、参議がどうだ、東京は人間のはきだめよ。俊助に高慢な顔をするなって、おれがそう言ったッて伝言ろ!』これがかれのせめてもの愉快であった。『彼人がどうしてまた東京に来たろう、』自分は自分の直覚を疑ってはまた確かめてその後、ある・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・家なれといへるを聞て、俄にとはむとおもひなりぬ、ちひさき板屋の浅ましげにてかこひもしめたらぬに、そこかしこはらひもせぬにや塵ひぢ山をなせり、柴の門もなくおぼつかなくも家にいりぬ、師質心せきたるさまして参議君の御成ぞと大声にいへるに驚きて、う・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・高層建築が左右からそびえたって空も見えないレキシントン街を背景に、もんぺをぬいだ赤松常子参議員が、白足袋に草履の足もとも元気そうに、コート姿をはこんでいる。洋装の九人の婦人たちもそれぞれ元気そうにかたまって歩いていて、多忙にくみ立てられたニ・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
出典:青空文庫