・・・ 田口は、メリケン兵を悪く云うのには賛成しないらしく、鼻から眉の間に皺をよせ、不自然な苦い笑いをした。栗本は、将校に落度があったのか、きこうとした。が、丁度、橇からおりた者が、彼のうしろから大儀そうにぞろ/\押しよせて来た。彼は、それを・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・皆も賛成だった。窪田さんは山崎のお母さんの家にして、日と時間を決めて帰って行った。――こんなに弾圧が強く、全部の組織が壊滅してしまったとき、この遺族のお茶の集まりだって又新しく仕事をやって行く何かの足場になるのではないか、さすがしっかりもの・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・「太郎さんのところからも賛成だと言って来ている。ほんとに僕がその気なら、一緒にやりたいと言って来ている。」「そうサ。お前が行けば太郎さんも心強かろうからナ。」 私は次郎とこんな言葉をかわした。 久しぶりで郷里を見に行く私は、・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・そうして時たま私に手紙を寄こして、その娘の縁談に就いて、私の意見を求めたりなどして、私もその候補者の青年と逢い、あれならいいお婿さんでしょう、賛成です、なんてひとかどの苦労人の言いそうな事を書いて送ってやった事もあった。 しかし、いまで・・・ 太宰治 「朝」
・・・私はその時も、彼の渡支に就いての論説に一も二もなく賛成した。けれども心配そうに、口ごもりながら、「行ってもすぐ帰って来るのでは意味がない、それから、どんな事があっても阿片だけは吸わないように。」という下手な忠告を試みた。彼は、ふんと笑って、・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ しかし私のこの案はやはり賛成してくれる人はなさそうである。私のいうような「悪行日」はだんだん廃止される。最近にはまた勉強の活勢力を得るための潜勢力を養うべき「怠け日」であった暑中休暇も廃止されるくらいであるから。・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・それでとうとう田丸先生に相談を持ち掛けたところが、先生も、それなら物理をやったほうがよかろうと賛成の意を表してくださった。少なくも、そういうふうにその時の先生の話を了解したので、急に優勢な援兵を得たように勇気を増して、夏休みに帰省した時にと・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・父親はだまっていたが、勿論賛成ではなかった。しかし三吉は、高島を福岡へおっかけよう、そこで紹介状をもらって、ボルの東京へゆこう、それだけを心のなかにきめていた――。「高坂さんや深水さんにも、だまってゆくのかい?」 あきらめた母親は、・・・ 徳永直 「白い道」
・・・婦人参政権の問題なぞもむしろ当然の事としている位である。しかし人間は総じて男女の別なく、いかほど正しい当然な事でも、それをば正当なりと自分からは主張せずに出しゃばらずに、何処までも遠慮深くおとなしくしている方がかえって奥床しく美しくはあるま・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・御婆さんに賛成なさるか、私に同意なさるかで事はきまります。 忘れました。局部内容発現の芸術でもっとも旨かったのは蝙蝠安ですな。あれは旨い。本当にできてる。ゆすりをした経験のある男が正業について役者になったんでなければ、ああは行くまいと思・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
出典:青空文庫