・・・両人は蒼くなって、あまり跳ね過ぎたなと勘づいたが、これより以後跳方を倹約しても金剛石が出る訳でもないので、やむをえず夫婦相談の結果、無理算段の借金をした上、巴里中かけ廻ってようやく、借用品と一対とも見違えられる首飾を手に入れて、時を違えず先・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 大学に入院して切開して貰ったのだけれ共、後から聞くと、自分は斯うやって死ぬ運命を与えられて居るのだから病院へ等入って、終るべき命を無理算段で延して置く事は望まないと云ってなかなかきかなかったそうである。けれ共私の母や親類の者は気を揉ん・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・宮沢は随分窮してはいたのだが、ひと算段をしてでも金で手を切ろうとした。しかし親許では極まった手当の外のものはどうしても取らない。それが心から欲しくないのだから、手が附けられない。とうとうその下女を妻にして、今でもそのままになっている。今は東・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫